モバイルバッテリーのオートパワーオフ・キャンセラーは簡単に作れるが
便利なはずのモバイルバッテリーの「オートパワーオフ機能」が、逆に不便になることも
市販されているほとんどのモバイルバッテリーには、電圧監視モジュールが搭載されており、電流がごくわずかになると自動的に出力を停止する仕組みになっています。
この“この、小さな親切大きなお世話“な機能のせいで、微弱電流しか流れない回路や、休止状態を挟むような機器では、モバイルバッテリーが使えないケースが出てきます。
この不便さを解消する一つの方法
オートパワーオフを回避する最も手軽な方法は、USB端子にダミー負荷(抵抗)を取り付けることです。
多くのモバイルバッテリーでは、50~100mA未満の電流しか流れない状態になると自動停止してしまうため、5V ÷ 50~100mA = 100~50Ω程度の抵抗を接続することで、それを防ぐことができます。
ただし、この方法は難点だらけ
この“力技”では、USB端子を1つ占有してしまう上に、電力を単に熱として捨てているだけなので、エネルギー効率が悪く、あまりスマートとは言えません。
余っている18650リチウムイオン電池をモバイルバッテリー化する基板
お家に転がっている使い道のないリチウム系の充電池に取り付けるだけで、簡単にモバイルバッテリーを自作できる基板が、Amazonなどで手軽に入手できます。
しかも、格安品を選べば10枚〜20枚セットのまとめ売りでも、なんと千円未満。最短で翌日に届くというスピード感で、手軽に試すことができます。
出回り始めた当初、「これは面白そうだ」と思い、私ももちろん購入しました。私が選んだのは、制御ICにFM5324GAを搭載した基板です。
この他にも、別のICを使ったものや互換チップ搭載の基板も販売されています。
どの基板も使い方はとてもシンプル。18650リチウムイオン電池や、昔のスマホや携帯で使われていたリチウムポリマー電池のプラス・マイナス端子を、電線などで基板に接続するだけ。
それだけで、自作モバイルバッテリーが完成します。
この基板には、5Vへの昇圧や過充電・過放電の保護機能が備わっており、USB端子も最初から付いているので、本当に電池をつなぐだけでモバイルバッテリーのように充放電が可能になります。
使い道がなくなったリチウム系の充電池を有効活用したい方には、まさにぴったりのアイテムです。
なお、販売元の想定外の使い方になりますが、ニッケル水素電池を3本直列につないで3.6Vの電源にしても、動作すると思います(※あくまで自己責任で)。

モバイルバッテリーの“オートカット機能”が割と邪魔
この基板を含めたモバイルバッテリー全般への不満点 ― 微電流だと勝手にオフになる問題
このような不要リチウム電池を活用できる基板をはじめ、多くのモバイルバッテリーに共通する不満点があります。
それは、消費電流が少ない負荷を接続すると、自動的に出力がオフになってしまうことです。
たとえば、LEDを1個だけ点灯させるような軽い負荷では、必要な電流がごくわずかすぎて、バッテリーが自動でオンにならなかったり、オンにしてもすぐに自動でオフになってしまったりします。
具体例として、前述のFM5324GAチップを搭載した基板では、電流が80mAを下回ると自動で出力を停止する仕様になっています。
FM5324GAの仕様
項目 | 内容 |
---|---|
型番 | FM5324GA |
動作電圧 | 2.8V~5.5V |
出力電圧 | 5V(USB出力) |
最大出力電流 | 1A(短時間で最大1.2A) |
自動出力停止 | 負荷電流 約80mA 未満で停止 |
保護機能 | 過放電・過充電・短絡保護 |
主な用途 | モバイルバッテリー基板、USB電源回路 |
オートカット機能で助かるより困る場面が多い……
この“オートカット”機能、スマホなどの充電用としては便利な仕組みかもしれませんが、工作用や省電力機器の電源として使いたい場合は、むしろ邪魔になります。
常に大きな電流を必要とするわけではないので、10mA程度の微電流でも出力を維持してくれるモバイルバッテリーが欲しいと、個人的には強く思います。
しかし、こうした条件を満たすモバイルバッテリーは市販品ではほとんど見かけず、結局は自作するしかないのが現状です。
ダミー負荷による回避も一応可能だが…
もちろん、USB出力の+−にダミー抵抗を接続して、常にオートカットが働かない程度の電流を流し続けて回避する方法もあります。
実際に試してみたところ、通常の5V出力では問題なく使えました。
ただし、USBトリガーを使ってPD(Power Delivery)やQC(Quick Charge)対応のモバイルバッテリーから12Vを取り出そうとすると、抵抗の影響なのか、トリガーが正しく動作せず、うまくいきませんでした。
つまり、オートカット回避用のダミー抵抗が、逆に高度な電圧出力制御の邪魔になるケースもあるというわけです。
一昔前は100均セリアで手に入った自作に流用可能なUSB電源たち
100均セリアはモバイルバッテリー自作の強い味方だった(過去形)
モバイルバッテリーを自作したいと思ったとき、材料の調達先としてとても便利だったのが100円ショップのセリアです。
特に2010年前後からは、電池ボックスタイプの「乾電池USBチャージャー」や、車のシガーソケット用「USB電源アダプター」が、定番商品としていつでも100円(税別)で入手できる状態でした。
セリアの電気小物、最近は見かけなくなった?
しかし、最近では物価高の影響か、こうした便利な電気小物をセリアの店頭で見かける機会が減ってきています。
シガーソケット用のUSB電源アダプターは、現行品としてまだ細々と残ってはいますが、旧型の、しっかりした作りのタイプは見なくなってしまいました。
また、かつては常時置かれていた電池ボックスタイプの「乾電池USBチャージャー」も、最近はほとんど見かけません。
品切れなだけなのか、それとも廃盤になってしまったのかは不明ですが、長年愛用してきた身としては、廃盤でないことを祈るばかりです。
中身の基板が優秀だった
これらのセリア製USB電源シリーズは、中の基板を取り出して流用することで、モバイルバッテリー自作の重要パーツとして活用できました。
ダイソーにも類似の製品はあったようですが、価格が100円を超えるものも多く、電気小物のジャンルに関しては、やはりセリアの方が品揃えもコスパも優秀だった印象です。
電池BOXタイプの「乾電池USBチャージャー」
単3電池2本で5V電源になる便利アイテム
セリアで販売されていた「乾電池USBチャージャー」は、単3電池を2本入れるだけで5Vに昇圧してくれる便利な商品でした。
USB Type-Aメスの出力端子が付いており、ケーブルをつなぐだけで手軽な5V電源として使えるため、電子工作の実験で5Vが欲しいときや、携帯電話を充電するのに大活躍でした。
中身はDC-DC昇圧基板+BL8530互換チップ?
なんとこれがたったの100円(税別)!
中には単3×2の電池ボックスに加えて、パワーインダクタや昇圧用ICが実装されたDC-DCステップアップ基板が収まっており、非常にお得感がありました。
集めた情報から判断する限り、ICはSOT-89-3パッケージのBL8530互換チップが搭載されているようです。
単品のBL8530自体はネットでさらに安く買えるものの、組み立て不要で、必要な周辺部品付き、しかも実店舗の100均で気軽に買えるという点が最大の魅力でした。
出力性能と注意点
BL8530の仕様上、出力電流は入力電圧に左右されます。
単3電池2本(約3V)だと200〜300mA程度の電流しか取り出せないため、やや非力な印象ですが、小電流用途には十分。
リチウムイオン電池(満充電で約4.2V)を電源にすれば、400mA程度まで出力が伸びるようです。
一方でこの基板、低電圧カットオフ機能が存在しないため、電池が空になるまでひたすら電力を使い続けます。
負荷が無くても自己消費電流があるので、エネループなどの充電池を入れっぱなしで放置すると、過放電で電池がダメになる可能性が。
パッケージにも「アルカリ電池専用」と明記されており、充電式電池の使用は非推奨とされています。
また、この基板を使って「省電力時に自動で切断されないモバイルバッテリー」を自作したい場合は、低電圧時に自動停止させる電圧監視回路と、使用しないときに回路を遮断できるオン/オフスイッチの追加が必要になります。
最近は見かけない? でも買いだめしてる人はしてる
このUSBチャージャーも、最近ではセリアの店頭でほとんど見かけなくなってきました。
ただ、電子工作好きの間では人気が高く、見つけたらまとめ買いしていた方も多いはず。
実際、私の家にもこのチャージャーがごっそり在庫されています。
電池BOXタイプの「乾電池USBチャージャー」の画像
買い溜め品の写真です。

左が初期型。右がかなり後期に販売されていたもの。
この2種類の他にも、もっていませんが、ボディが黒で「USB charger」とロゴの入った製品もありました。
シガーソケット用の「USB電源アダプター」
12V車のシガーソケットに挿すと、USB出力の5V電源になるアダプターです。
このタイプは現在でも店頭で見かけますが、旧型の「やや大きめ」な製品は最近姿を消しつつあります。
旧型モデルは、基板上にリード部品が使われており、改造や流用がしやすく非常に便利でした。
一方、現行品はコンパクトになった分、表面実装部品(SMD)が密集していて、手を加えにくくなっています。
旧型のアダプターでは、MC34063A(またはその互換IC)がDC-DCコンバータの降圧用として使われていました。
MC34063Aは、ステップダウン(降圧)としてだけでなく、基板上のパワーインダクタの位置を変えてパターンを少し加工することで、ステップアップ(昇圧)回路としても改造可能な柔軟なICです。
また、このアダプターの筐体も優秀で、中の基板を取り出した空ケースは、シガーソケット側のDIY部品としてそのまま再利用できます。
見た目の割に、材料として無駄がほとんど無く、工作向きなアイテムでした。
ちなみに、USB出力は12V限定入力ではなく、例えば9Vを入力しても問題なく5V出力が得られるので、例えば単3のニッケル水素電池6本(7.2V)からUSB電源を作るような用途でも使えました。
ステップダウン用途なら、現行品でも十分に利用可能です。ただし、昇圧改造が可能かは不明です。
このアダプターには、車載用途のため当然ですが、自動停止(オートカット)機能はありません。
そのため、こちらにも低電圧時に自動停止させる電圧監視回路と、使用しないときに回路を遮断できるオン/オフスイッチの追加が必要ですが、微電流を長時間流し続けるようなモバイルバッテリーの自作にも適しています。
ちなみに、DCDCコンバーター用ICであるMC34063Aは単体でも入手可能で、
秋月電子なら1個50円程度、AliExpressなら5個で50円程度と格安です。
ただし、パワーインダクタや周辺部品が別途必要なので、セリアのUSB電源アダプターを利用した方が、トータルで安上がりな場合もあります。
また、MC34063Aを使った完成済みのDC-DCモジュール基板なら、1個100円程度で入手可能です。
MC34063Aに関して
簡易仕様表
項目 | 内容 |
---|---|
型番 | MC34063A |
入力電圧範囲 | 3V〜40V |
出力電圧範囲 | 最大40V(設定により可変) |
出力電流 | 最大1.5A(外付けトランジスタなし時) |
動作周波数 | 〜100kHz(内部発振器) |
変換方式 | ステップダウン(降圧) ステップアップ(昇圧) 反転(負電圧出力) |
内部構成 | スイッチングトランジスタ 電圧リファレンス 発振器 誤差アンプなど |
パッケージ | DIP-8 / SOIC-8 |
- MC34063Aは、古くからある定番のアナログDC-DCコンバータICです。
- 降圧、昇圧、負電圧と3通りの変換が1つのICで可能。
- 動作電圧が3Vから対応しており、乾電池〜車載電源まで幅広く使えるのが特徴。
- 外付け部品は必要ですが、構成が単純なので基板自作や改造にも最適です。
シガーソケット用「USB電源アダプター」の画像
こちらも手元に買い溜めしてある商品の写真です。

左が初期のもので、右が後期のもの。右の商品は、店舗で長く見かけた印象があります。
100均で購入可能な商品の中で、リード部品で組まれた基板が入っているのは上の2種類だと思われますが、表面実装部品で組まれたもっと小さいサイズのシガーソケット用「USB電源アダプター」は、他にもたくさんの種類がありました。
モバイルバッテリーを自作するなら
DC-DC昇圧や降圧用のモジュール基板を購入するのもありです
最近、100均セリアの便利でお値打ちな電気小物が徐々に姿を消しつつあるため、DC-DCの昇圧や降圧用の基板が欲しい場合には、モジュール化された基板を通販で購入するのも選択肢のひとつです。
DC-DC昇圧基板(ステップアップコンバーター)
AmazonなどでDC-DCのステップアップコンバーターを購入する場合、価格が安く、入手しやすいという点から、XL6009
やMT3608
といったICを使ったモジュール基板がおすすめです。
この基板に、3.7Vのリチウムイオン電池1セルを接続し、USB Type-Aのメス端子を取り付ければ、出力電圧を調整するだけで、手軽にモバイルバッテリーを自作することができます。



通販購入にはデメリットも……
100均商品と比べた場合の欠点は、やはり通販なので手元に届くまで多少の時間がかかること。また、5個や10個などのまとめ売りが多く、1個だけ欲しい場合には割高になることが多い点でしょうか。
用途に合わせた「ちょうどいい電源」を自分で作ろう
市販のモバイルバッテリーは便利な反面、オートカット機能などの「ちょっとした不便さ」に悩まされることもあります。
特に低電流の電子工作や小規模な電源用途では、「勝手にオフにならない」素直な電源が欲しくなるものです。
そんな時こそ、不要なリチウム電池や100均グッズを再利用した自作モバイルバッテリーが活躍します。セリアなどで買える100均アイテムが入手しづらくなってきている昨今でも、Amazonなどで購入できるDC-DCモジュールを使えば、手軽に自分好みの電源環境を構築することが可能です。
ちょっとした知識と工作の手間で、自分の用途にぴったり合った「ちょうどいい電源」を手に入れられるのが、自作の魅力。
使わなくなったバッテリーや眠っているパーツを活かして、あなたもぜひ一度、モバイル電源づくりにチャレンジしてみてください。