複数セルを使用するモバイルバッテリーは個々の電圧監視が重要だと思う
前回の記事で、市販されている多くのモバイルバッテリーは、微量な電流しか消費しないと勝手に自動停止するので困る。
微量電流しか流れない状況でも電源として使えるモバイルバッテリーが欲しいので自作したい、と書きました。
今回は、実際に製作してみます。
電圧5Vを作るのに昇圧するか降圧するか
1セル3.7Vのリチウムを5V出力のUSB電源とするには、1セル使って3.7Vを5Vに昇圧するか、2セル7.4Vや3セル11.1Vを5Vに降圧するかです。
モバイルバッテリーの容量を大きくしたり、PDやQCへの対応等で或る程度の大電流を必要としたりする場合、1セルだけでは辛いので、2セル以上のリチウム系の充電池を直列、または並列に接続する事になります。
市販されている大容量モバイルバッテリーで、PDやQCに対応している商品の本体がどうしても大きく(分厚く)なるのは、内部にリチウムポリマー電池を2セル、3セル内蔵しているからです。
そういう事情があるから、小型で明らかに有り得ない大容量を謳うモバイルバッテリーが詐欺商品であると、見た目で判断が付く訳です。
今回自作するモバイルバッテリーは、18650リチウムイオン電池2セルを、直列に繋ごうと思います。別に3セル、4セルにしても良いのですが、余り多セルだと扱いが面倒なので、取り敢えずは2セルです。
さて、電池と言うのは2つ以上の複数セルで使用する場合、どのセルからも均等に電力が消費される訳では無く、消費が1つのセルに偏よってしまう事が多いです。
要するに、セルAとBを同時に使用した場合、セルAばかりから電力が消費されて、極端な話、全体としての電圧はまだ余裕があるのに、セルAは過放電に近付き、セルBは殆ど満充電の儘、なんて現象が普通に起こります。
従って、リチウム系(ニッケル水素でも同じ)の充電池を2セル以上を同時に使用する場合は、個々のセルの残容量を監視して、何方か片方がエンプティに近付けば、そこで放電をカットする安全装置が必要になります。
複数の電池(セル)を電源として同時使用の注意! 内部抵抗の差による電力消費の偏り
複数の電池(セル)を直列または並列に接続して使用する際、各セルの内部抵抗の違いによって、電力の消費に偏りが生じる可能性があります。
1. 直列接続の場合
直列接続では、各セルに流れる電流が同じですが、内部抵抗が異なると、内部抵抗の大きいセルにより多くの電圧が掛かり、そのセルが他より早く消耗する可能性があります。
この為、内部抵抗の差が大きいと、電力供給全体の効率が下がったり、一部のセルが早く劣化したりするリスクがあります。
2. 並列接続の場合
並列接続では、各セルの電圧は同じですが、内部抵抗が低いセルにより多くの電流が流れ易くなります。
その結果、内部抵抗の低いセルが過剰に電流を供給し、他のセルと比べて早く消耗する可能性があります。
何れの接続方法でも、セルの内部抵抗の差が大きいと一部のセルに負担が集中し、効率的なエネルギー供給が難しくなる為、セルの内部抵抗が均一である事が理想です。
秋月電子で買って忘れていた便利で安い電圧検出ICのTCM809R
複数セルの個別電圧監視をどうするか、充電池を駄目にしない為に、モバイルバッテリーの自作で先ず考えなけれはならないのがそこです。
過放電を防ぐ為の電圧監視には、トランジスターのVBEを利用するのがコスト的には安価な気がしますが、温度に影響され易く精度に関しても今一つです。
なら、前にやったLEDの順方向電圧(VF)を基準電圧にして、オペアンプでの監視が良いかなと思ったのですが、そこで、昔に秋月電子で購入していた電圧検出ICのTCM809Rの在庫が、家に存在する事を思い出しました。
このTCM809Rは、動作電源として入力した電圧を監視し、約2.6Vを境として、それ以上なら入力電圧の略その儘をリセット端子から吐き出し(出力HI)、以下になると出力を停止して0V(出力LO)になる仕様のICです。
SOT-23パッケージで8個入りで200円という安さ。もう廃版なのか、今、秋月電子の在庫をみたら、在庫限りと書いてありましたが、(2024年11月上旬確認)現状では未だ販売していました。
電圧検出ICと言えばM51957Bの方が有名な気がしますし、使い易いのですが、此方は値段が1個100円とかしますし、入手性が悪いので、予算を低く抑えて手軽に入手したいのなら、TCM809Rを在庫があり購入可能な間に早目に買い置きした方が良いかも知れません。
因みに、M51957Bも既に廃版の様です。此方も、欲しい方は早目に入力しておいた方が無難かも。
型番に拘らないのであらば、電圧監視IC自体は現行品がAmazon等でも購入可能です。
若干、お値段がお高いですが。
DC-DC降圧用 TCM809Rを使った直列用の低電圧監視 過放電防止の回路図
DC-DC降圧基板でモバイルバッテリーを自作する時に使えるであろう、リチウム系充電池2本を直列に繋いだ場合の、低電圧監視、過放電防止の回路を組んでみました。略々TCM809R任せの電圧監視回路です。
最初にお断りしておきますが、以下の回路は多分これで使えるんじゃないかというコンセプトで組んだ回路であり、回路設計的に正しいかは全く不明です。ただ、組んでみたら正常動作はしていますし、部品の異常発熱等は特にありません。
基本的なトランジスター2石(NPN&PNP)を使った、過放電や過充電を電圧的に監視して狙った電圧になったら電力供給を停止させる電子回路です。別に私が考案した回路ではありませんし、電圧監視に関してはTCM809Rに丸投げしています。
トランジスターの役割はスイッチングです。コスト面で手元にあった単価のクソ安い中華トランジスターを使用していますが、2N系でなくても、日本人なら皆んな大好きであろう定番のホビートランジスター、2SC1815と2SA1015に換装しても普通に動きます。
ただまあ、中華トランジスターは安価なので、一度使い始めるとその安さに惹かれて段々と主力で使い始めてしまいます。
何種類かのトランジスターの詰め合わせ品なんかもAmazonで手軽に入手可能なので、在庫として手元に確保しておくと、いざ使いたいという時に間に合って便利です。
両方の充電池の電圧が充分に高い時には、両方のフォトカプラPC817CがONになって(AND回路)、Pチャネル型MOSFETのMTB060P06I3がONになり負荷に電流が流れます。
何方かの充電池の電圧が3.2V辺りまで下がるとTCM809Rの電圧監視が働いてトランジスターがOFFになり、連鎖的にAND回路が条件を満たさ無くなりMTB060P06I3もOFFになり、負荷への電流供給が停止します。
因みに、Pチャネル型MOSFETは、これまた手元にあったMTB060P06I3を使っていますが、別にこれじゃなくても構いません。VGS(th)が高過ぎずON抵抗が低めのFETなら何でも良いので、好きなのを使って下さい。
フォトカプラとPチャネル型MOSFETを使用せずに、この部分をリレーを置き換えても大丈夫だと思います。
TCM809Rは監視電圧が約2.6Vになるとリセットを掛ける仕様のICですが、電池を流石に容量0になる2.6Vまで放電させたくないので、PNPトランジスターのVBEによる約0.6Vの電圧降下を利用して、約3.2Vで放電が停止するようにしています。
回路図を実際に組んでみました
至極当たり前の話だが1セルより2セル使った方がモバイルバッテリーの容量は大きくなる
18650電池1本より2本使った方が当然、電池容量は大きくなります。
2000mAhの18650電池1本なら容量7400mWhだけど、2本なら14800mWhになる訳ですので、何の不思議もありません。
昔、100均ダイソーで、18650電池1本を昇圧して5VのUSB出力付きのモバイルバッテリーとして販売されていた頃は、大容量のリチウムポリマー電池が未だ高価だったのか、18650電池2本を直列に繋ぎ降圧してUSB5V出力にした、(当時の)大容量モバイルバッテリーも販売されていました。
複数セルの個別電圧監査が可能になると、各ご家庭で余っている18650電池や古い携帯用のリチウムポリマー電池を、複数セル纏めて容量大き目のモバイルバッテリーを自作出来るので、利用の幅が広がり実用度がアップして、作るもの楽しいです。