この記事はクトゥルフ神話大系の映像化に成功した名作を、おすすめとして紹介するのが目的ではない。明確に「クトゥルフ神話的要素」が含まれている映画を、淡々とまとめていくだけである。神話生物の登場、パッケージに原作名の表記、ネクロノミコン、ミスカトニック大学等のワード。これらの条件を満たせば、神話映画としての完成度は二の次で、ただ紹介していく。
クトゥルフ神話的要素の濃淡は関係ない
この記事の方向性としては、いわゆる「出来が良く、完成度の高い神話大系の映像化作品」だけを扱わない。
神話的要素、極端な話をすれば、登場人物のセリフの中にそれらしいワードがあれば、あるいは映像ソフトのパッケージに「H.P.ラヴクラフト原作」のような一文が書かれてさえいれば、地雷のような作品も含めて、すべて神話映画である。
個人的な立ち位置
ちなみに私は――
ラヴクラフトの小説は大好きだが、正直に言えば、読みにくくて疲れるし、つまらないと感じる人間である。でも、その世界観やアイデアの核だけには魅了されている。要するに、「ラヴクラフト信者」でも「アンチ」でもない人間だ。
さらに、ラヴクラフトの考えたコズミック・ホラーへ独自の解釈を追加したオーガスト・ダーレスの作品や、ブライアン・ラムレイがもたらした「神話生物 vs 人間」という構図も大好きである。
成功・失敗の区別なく
人の心の中にあるクトゥルフ神話大系への思いは千差万別だ。
だからそれを忠実に映像化しようとすれば、たぶん他者からは地雷映画にしか見えない、なんだかよく分からない作品が生まれてしまうのも当然だと思う。
だから、そういう酷評される神話系作品が生まれたとしても、作品作りの方向としては間違っていないと思っている。
そして、そういう映画も結構好きなので、出来不出来のバイアスなしで神話系映画の紹介記事を書きます。
※なお、本記事では「影響を受けた作品」や「雰囲気的に神話っぽい名作」は扱わない。
神話的要素あり映画紹介
『霊廟/H.P. Lovecraft’s The Tomb』(2007)
原題は『H.P. Lovecraft’s The Tomb』。国内版のパッケージにも「H.P.ラヴクラフト原作」とはっきり書かれている(ただし、作品中で表示されるタイトル表記は『H.P. Lovecraft The Tomb』で、’s は付かない)。これはもう、誰がなんと否定しようとも、濃厚なクトゥルフ神話的要素を孕む映画としか言えない。
制作陣は、H.P.ラヴクラフトの1917年の短編小説「霊廟」に基づいて映画を作ったらしいが、実際の映画の内容には、ラヴクラフトの短編小説要素はほぼ皆無である。
時代設定は現代で、内容的にはほぼデスゲーム。しかし作中では、登場人物たちがH.P.ラヴクラフトについて言及し、犠牲者の一人の名が「ピックマン」である。ここまで来れば、誰がどれだけ反論しようと、神話作品であるという事実は揺るがない。
ラッピング(ミイラのようにぐるぐる巻き)された女性タラ(ヴィクトリア・ウルマン)が、倉庫のような場所に落とされる場面から映画は始まる。ちょっと待て、パッケージに描かれていた「棺桶の中に閉じ込められた」ようなシーンは、いったいどこへ消えたのだろうか?
興味があれば、一度観てみてほしい。個人的には、割と面白いと思っている。
『クトゥルフ(原題)/Cthulhu』 (2007)
映画の題名が、ただストレートに『Cthulhu』。こんなタイトルを付けられてしまったら、内容や出来がどうのこうの以前に、神話作品として扱わざるを得ないではないか。
でも安心してほしい。これは、かなりクトゥルフ神話要素の濃い作品である。ただし作風としては、BL要素に加え、『インスマウスの影/The Shadow Over Innsmouth』と『魔宴/The Festival』を程よくミックスした内容になっている。
ゲイの歴史学教授ラッセルは、故郷であるオレゴン州の小さな海辺の町「リバーマウス」へ帰省する。すると、久しぶりに再会した実父は、カルト集団を率い、クトゥルフの復活を目論んでいた。
舞台こそ、マサチューセッツ州エセックス郡のインスマウス村ではないが、そこは大きな問題ではないだろう。海から上がってくる「深き者ども(Deep Ones)」らしき存在や、「輝くトラペゾヘドロン(Shining Trapezohedron)」も登場する。
『H・P・ラヴクラフトの 新・悪魔の儀式/Cthulhu Mansion』(1991)
日本国内で発売されたVHS映像ソフトのタイトルは『H・P・ラヴクラフトの 新・悪魔の儀式』、原題は『Cthulhu Mansion』。よってこの作品も、クトゥルフ神話的要素を孕む映画として、紹介せざるを得ない。
ある犯罪者グループが、ショーを演じている魔術師とその娘を拉致する。彼らは郊外にたたずむ、古めかしい大きな屋敷に立て籠もる。すると、なんと屋敷の入口には「Cthulhu」と書かれた表札が掲げられている。さらに屋敷内には、ある意味で非常に恐ろしい、表紙に「Cthulhu」とだけ書かれた魔術書まで登場する。正体不明のクリーチャーや悪魔が現れ、犯罪者たちは1人、また1人と始末されていく。
いや、すまん。これは何がどう『H・P・ラヴクラフトの』なのか、まったく理解できない。H・P・ラヴクラフト本人が知ったら、絶対にクレームと監修が入るのではないかと思ってしまう。制作者がクトゥルフ神話という名前だけを知り、内容をほとんど把握しないまま作った作品としか考えられない。
だが、「Cthulhu」の名が明確に出てくる以上、こういうものも正当な神話作品として扱うしかない。釈然としない部分は多いが、この企画においては反論すら許されないのである。
神話作品だということはいったん忘れ、90年代のホラー映画として観れば、それなりに楽しめる作品ではある。
『コールガール・オブ・クトゥルフ(原題)/Call Girl of Cthulhu』(2014)
ダジャレのようなタイトルだが、ところがどっこい、これはかなり本格的にクトゥルフ神話要素を孕む作品だったりする。個人的には、かなり好きな一本だ。
オタクで内気な童貞男性ヴィクターは、美しく魅力的なコールガールであるライリーに恋をする。しかしライリーは、邪神クトゥルフ降臨の「器」となる血筋を持っており、そのためカルト集団に誘拐されてしまう。ヴィクターはライリーを救出に向かうが――すでに彼女は、神話生物の精を受け、異形と化していた。「こんな私でも、まだ愛せる?」ライリーはヴィクターに問い掛ける。
いやこれ、低予算の色物作品かと思いきや、かなり真面目に作られた神話テイストの作品なのである。作中では「星辰の位置がどうのこうの」といったセリフも普通に飛び出し、TRPGからクトゥルフ神話に入った人間には、かなり刺さる作りになっている。すべてCG処理に頼るのではなく、実写特撮も使われており、グロテスクな描写も相応に頑張っている。
ただし、人によってはセクシュアル・コメディの側面が強く感じられるため、評価が大きく分かれる作品だと言えるだろう。
『地球が凍りつく日/The Last Winter』(2006)
最後に紹介するのは、かなりギリギリのラインを攻めた作品である。
地球温暖化によって永久凍土が溶け、古代の病原体(と、何か)が蘇ったのではないかと推論する科学者カリン・マクベイン。アラスカの石油採掘基地では、作業員たちが寒さや幻覚、狂気に襲われ、次第に互いを疑い始め、1人、また1人と破滅していく。そしてラストに、ほんの少しだけ姿を現すのが、『風に乗りて歩むもの』――ウェンディゴである。
この映画に対して、「いや、それは神話要素というより、ラリー・フェセンデン監督が単純にウェンディゴ好きだから出しただけだろ」と思った人は、オーガスト・ダーレスやアルジャーノン・ブラックウッドに謝ってほしい。
誰がなんと言おうと、ウェンディゴが登場するなら神話要素ありと判断する。もちろん、この断言に納得するかしないかは、それぞれの自由だ。
しかし、神話作品か否かの討論は別として、ほんの一瞬とはいえ、作中に登場するウェンディゴの姿は素晴らしい。興味があれば、一度観てほしい。
クトゥルフ神話大系の映画5選紹介のまとめ
今回紹介したのは、いわゆる「よく出来たクトゥルフ神話映画の名作」ではない。
むしろ、他の紹介者があまり触れないものや、映画の評価を見ても積極的にはおすすめされにくい作品を、あえて混ぜている。
だが、ネクロノミコンという単語が出てくる、旧支配者の名が語られる、神話生物が姿を見せる、あるいはパッケージに「H.P.ラヴクラフト原作」と書かれている。そうした明確なクトゥルフ神話的要素が含まれている以上、それらは間違いなく神話映画である。
出来が良いかどうか、完成度が高いかどうかは、今回は問題にしていない。
名作か駄作かを選別する記事は、他にいくらでもある。
本記事ではただ、「条件を満たしているから紹介する」というルールだけで作品を並べた。その結果、評価が難しいもの、扱いに困るもの、正直どう反応すればいいのか分からないものが自然と残った。
だが、それこそがクトゥルフ神話映像化の実情なのだと思う。
人によって解釈が違い、理想像も違うからこそ、時に地雷のような作品が生まれ、それでもなお「神話映画」として存在し続ける。
ネットでクトゥルフ神話映画を調べると、どうしても有名作ばかりが並ぶ。その状況に少しうんざりしていたので、今回はあえて、アウトサイダー的な定番から外れた作品だけを拾い上げた。
別におすすめはしていない。
ただ、確かにそこにはクトゥルフ神話があった。
それだけで、今回の記事は十分だろう。
紹介した作品の多くは、配信サービスでは見つけにくかったり、検索しても有名作ばかりが表示されがちです。そのため、評価や出来とは関係なく「とにかく実物を確認したい」「名前だけの神話映画も含めて掘りたい」という場合、宅配レンタル系のサービスは今でも有効な選択肢になります。
【TSUTAYA DISCAS】の定額レンタルプランには、約30日間の無料お試し期間があり、旧作・マイナー作・地雷寄り作品まで含めて物理メディアを探せるのが特徴です。
「神話要素があるのかどうか、自分の目で確かめたい」「買う前に一度見て判断したい」という人には、使い道はあります。
また、30日間の無料体験のあるAmazonプライムビデオ などの配信サービスでお目当ての作品を視聴できる場合もあります。
配信で済むものは配信、見つからないものはレンタル、という使い分けをすると、探索の幅はかなり広がります。
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