本作『Hell Hole(2024)』は、過去に同名タイトルで存在した映画とはまったく関係のない独立作品です。
他の同名作とは世界観も内容も別物、関連性も皆無で、今作は寄生生命体による侵食と変異を描く奇妙な寄生ホラーになっています。
重機で地面を掘っていると、100年以上前の人間が仮死状態で見つかり、そこから物語は始まります──。
本記事は、作品の世界観と感想を中心にまとめています。
『Hell Hole』同名別作品に注意
本作『Hell Hole(2024)』は、同名の
『ヘルホール ー悪霊館ー/Hellhole(2022:ポーランド)』や
『ヘルホール/Hellhole(1985:アメリカ)』とは全く別の作品です。
知人から、「寄生虫の出て来る面白そうなホラー映画があったよ~!」と、この『Hell Hole』を教えてもらいました。
内容的には、重機で穴を掘っている最中、土中から19世紀の軍人らしき男が奇妙な状態で突然出現します。しかも生きている。そして、その身体には寄生生物が──。ここから物語は動き始めます。
PVを見ると、長細い触手のような寄生虫が登場し、グロ系の描写も多そうに見えます。PVだけ見ると物凄く面白そうな作品です。あくまでPVを見る限りでは……。
本編を鑑賞すると、ショッキングでグロテスクなシーンは確かに存在しますが、無駄に尺が長い印象です。個人的にどうでもいいシーンが多くて間延びた展開に感じてしまいます。私としては1.5倍速くらいで速度での鑑賞をおすすめしたい。
今一つ盛り上がりに欠ける、練り込み不足、山場が不明確──テーマは良いだけに、もう少し頑張れば『遊星からの物体X(1982)』のような傑作になったのでは?と思ってしまう作品です。勿体ない……やはり予算でしょうか。
寄生虫ホラーと聞くと『スリザー(2006)』のようなヌルヌル・ヌメヌメ系のクリーチャーを期待してしまいますが、本作のクリーチャーはそこまで汁気はありません。気持ち悪さのクオリティは『Night Of The Tentacle(2013/日本未公開)』あたりが近いでしょうか。虫というよりタコ、完全にTentacleです。
クリーチャーの造形は悪くないのですが、ヌメリや汁気不足が否めません。
本作はShudder(シャダー)で配信されていますが、日本から視聴するにはVPNが必要です。この記事執筆時点では海外AmazonのPrime Videoでも配信があり、無料トライアルで視聴できそうです(※作品は時期によって入れ替わります)。
また、本作『Hell Hole』は既にブルーレイ版が発売されており、2025年の現状の価格は約2,000円代中盤くらい。興味があればこちらを参考に。これはアフィリエイトではないので、購入いただいても私には1円も入りません。安心して見て下さい。
個人的にはDVD版が出てくれた方が助かるのですが、今回はBlu-rayのみのようです。
『ヘルホール/Hellhole』簡単なあらすじ
著作権への配慮のため(不特性多数へのネタバレの自粛)、ネタバレありあらすじの詳細はnoteに移します。
1800年代、軍の小隊が“正体不明の生物”の脅威に晒されることから物語は始まります。
時代は移り、現代。
人里離れた発掘現場で、長期間地中に眠っていたとみられる男性が偶然発見されます。男性は奇跡的に生きていましたが、体内には説明のつかない謎の寄生生物が潜んでいる様子でした。
やがて寄生体は人間を乗り換えて移動する特性を見せ、犠牲者は増える一方で、感染拡大は起きないという、一般的な寄生ホラーとは異なる展開が続いていきます。
そのため、本作は感染ホラーというより、悪霊や悪魔憑き系ホラーの様相を呈します。
専門家らしき人物の調査から、寄生生物は未知の軟体生物と藻類の共生体である可能性が示唆され、人間を生かしたまま乗っ取る仕組みを持つことがわかります。
物語は、
・寄生生物の移動による犠牲者の拡大
・それを止めようとする人間側の抵抗
が繰り返され、最終局面へ向かっていく──という流れです。
『ヘルホール/Hellhole』まとめと考察
映画の総評
円盤で1.5倍速で鑑賞するとテンポが良く、ストレスなく楽しめました。それなりに面白かったです。なお、英語字幕での視聴なので、正確な内容把握には限界があります。
この作品には設定のブレや不明瞭な部分が見受けられます。例えば、寄生体に取り憑かれた人間の死に方や反応の仕方が一定でなく、作品内で複数のパターンが存在するように描かれています。また、寄生体の行動や増殖の描写も控えめで、視聴者が寄生ホラーに期待するような大量発生の恐怖は描かれていません。
こうした描写の制約もあってか、全体として物足りなさを感じる場面もあります。ただし、決して駄作ではなく、工夫された部分もあり、ホラーファンなら鑑賞しておく価値はある作品です。
この映画にある”期待外れ感”の考察
低予算のTV向け映画で、インディーズ作品だから──というだけでは説明のつかない“期待外れ感”がこの映画には存在します。
頑張って作られている作品なのに、わずかに引っかかる部分がある。それは何故かと考えたら、結論が出ました。
単純な話でした。この映画は寄生虫映画という触れ込みなのに、寄生虫映画に期待する展開がまったくと言っていいほど存在しないのです。
この映画が“寄生虫ホラー”として期待外れに感じられる最大の理由は、「感染拡大」の構造が欠けていることにあります。
一般的な「寄生虫ホラー」に視聴者が期待する構造
多くの寄生・感染をテーマにした作品では、
- 増殖し増えていく寄生虫の不気味さ、ビジュアル的な不快感
- 寄生された感染者の身体に現れる異様な変化や病変のグロテスクさ、症状の不気味さ
- 感染者が増殖し、社会(あるいは閉鎖環境内)全体へ広がる危機
- 誰が感染しているか分からないという疑心
- 仲間同士の不信によるドラマ
- 連鎖的なパニック
といった “感染者が増えていく”というスケールの大きさと、視覚的/心理的な恐怖の積み上げ を軸に展開するのが典型的です。
鑑賞する側も当然それを期待して観る。しかし――、
対して、この作品が取っている構造
しかし今回の作品は、
・寄生体は常に“ひとつ”(繁殖の可能性は仄めかされる)
・宿主が変わるだけで感染の連鎖は起きない
・「増殖による恐怖」ではなく「乗り移りの繰り返し」に焦点
・被害者の人数は増えるが、感染者は増えない
という、どちらかといえば寄生体でやる必要のない、むしろ悪魔・悪霊憑依系のホラー作品に近いルールを採用しています。
そのため「感染拡大」を期待していた視聴者は、まったく予想外の「いつ、どこで、誰に乗り換えるのか」という悪魔・悪霊憑依系──いや、単なるモンスターの動きで犠牲者が発生するだけの映像を見せられ続けることになり、結果として「これは何だったんだろう」という違和感が残ります。
この映画はそう、人体に寄生するモンスター・パニック作品でしかないのです。
本格的な寄生虫ホラー──例えば医学的ディテールやリアルな感染描写を期待して観ると、「コレジャナイ」感が強いのは当然でしょう。
つまり、本作はジャンルの“見せ方”が宣伝や触れ込みとズレていたため、視聴者の期待値と作品内容のギャップが大きくなってしまったと考えられます。
最終結論
寄生虫ホラーとして観れば肩透かしを食らう作品ですが、単体のモンスター・パニックとして観るなら、低予算ならではの工夫や独自ルールが光る部分も確かに存在します。
やや持ち上げすぎかもしれませんが、既存作の模倣に留まらない、意欲的な異色ホラーとして評価する余地は十分にあるでしょう。

