フィリピンだから産まれた有機体系冷蔵庫ホラー映画『Pridyider』
映画『Pridyider』は、2012年に公開されたフィリピンのホラー映画です。監督はリコ・マリア・イラルデ(Rico Maria Ilarde)で、主演はアンディ・アイゲンマン(Andi Eigenmann)です。この映画は、1984年の3 つの短編で構成されたホラー ・アンソロジー映画「Shake, Rattle & Roll.」の中の同名エピソードを基にしており、家にある冷蔵庫が恐怖の源となる物語です。
このタイトル『Pridyider』の発音はカタカナ表記すると「プリディダー」らしいです。フィリピン語(タガログ語)では、「冷蔵庫」を意味し、英語の”refrigerator(リフレジレイター)”から派生しています。それを踏まえて、「プリディダー」と表記しておけば、日本語話者にとっても発音が判り易いですね。
アメリカ(1992年)産の同じく冷蔵庫を題材にしたホラー『リフレジレイター 人喰い冷蔵庫/The Refrigerator』とは全く別の映画です。何の関連性も無く、当然リメイクとかでもありません。
『Pridyider』を鑑賞したい場合、英語字幕付きのDVDが海外販売されているので、それを購入するのが一番です。
またこの記事は、タガログ語音声、英語字幕のDVDで『Pridyider』を鑑賞した為、内容の把握に関しては、個人的に勝手な解釈をした上で、この記事を書いています。
『Pridyider』のあらすじ
著作権への配慮のため(不特性多数へのネタバレの自粛)、ネタバレありあらすじの詳細はnoteに移します。
物語は、長年アメリカで暮らしていたティナ(Andi Eigenmann)が、両親の死をきっかけにフィリピンの古い実家へ戻ってくるところから始まります。少女時代に家族の不幸が続いたため長く離れていた家ですが、帰宅したティナは、内部に不気味な気配が漂っているのを感じます。
特に台所に残された古い冷蔵庫が異様なほど禍々しい存在感を放ち、内部から奇妙な音が聞こえるようになります。最初は気のせいとして無視しますが、家の中で不可解な現象が多発し、冷蔵庫がただの家電ではないと判明します。
やがて、ティナは冷蔵庫に超自然的な力が宿り、過去の犠牲者の霊や人体片が封じ込められている事実に直面します。それは狂気に陥った彼女の母親が起こした凄惨な事件と深く結びついており、家族崩壊の真相と家に積み重ねられた怨念が明らかになっていきます。
冷蔵庫は生き物のように人を襲い、ついにはティナ自身も命の危険に晒されます。物語のクライマックスでは、ティナが母親の残した呪縛と向き合い、封印された悪霊と対決します。
過去と決別し、冷蔵庫の秘密を暴くことで、彼女はようやく自由を取り戻します。
『Pridyider』は、日用品である冷蔵庫が邪悪な存在へ変貌するという独特の設定を持つ、土着信仰の要素とフィリピン文化が濃く反映された異色のホラー作品です。西洋ホラーとは異なる情念と生々しさが特徴で、環境描写の面でも興味深い映像体験を提供します。
その冷蔵庫、凶暴につき(映画の魅力)
この映画の魅力を語るなら、その中心となるのは怪異と化した“冷蔵庫”。この冷蔵庫は、もはや家電の枠を完全に逸脱した、驚くべき数々の超常能力を備えています。
- 何でも食べる。
- 台所に置いた生肉はもちろん、迷い込んだ猫すら食べる肉食系。もし台所のネズミも食べてくれるなら、ネズミ駆除に役立ちそう。
- 内部はレイヤー状の異空間になっていて、開けるたびに中身が切り替わることも。普段は、普通の冷蔵庫として上手く振る舞う。
- この冷蔵庫は内部に複数の異空間をレイヤー状に内蔵しているらしく、開けるたびに“気分”で内部が切り替わります。普通の食材が入っていることもあれば、切り刻まれた人体パーツがぎっしり詰め込まれていたり、食材や人体片が変化して生まれた謎のバイオモンスターが“ドーモ、コンニチワ!”してくることもあります。
- 収納量無限大
- 見た目は家庭用の少し大きめの冷蔵庫だが、その収容量はおそらく無限大。一般的な大容量冷蔵庫の収納量──せいぜい800L程度──など比較にならない。ただし、その便利機能を家人は使いこなせない。
- 驚きの“バイオモンスター製造プラント”機能搭載。
- 中に入れた食材が虫へと変化したり、人体パーツが『物体X』に感染したかのように蠢き、奇妙な形状へと変態して、最終的には1体のバイオモンスターとして新誕することも。
- 触腕標準装備
- 冷蔵庫は動けない。内部から無数の触腕を伸ばすことで、離れた場所にある物にも手が届く器用さ。
- 気が向けば――人間だって、引きずり込む。
- 電気がなくても動く
- 霊的エネルギーを吸収しているのか、コンセントを抜いても普通に稼働。ただし、コンセントを挿していれば、普通に電力も消費している模様。
一度この映画を観れば、きっとこの冷蔵庫の魅力にどっぷりハマるはず。こんな魅力的な冷蔵庫、他のどんな映画でもまずお目にかかれません。
まとめ:最後に
個人的な趣味にドンピシャはまり、『Pridyider』はとても面白い映画でした。家電製品系ホラーというか、無機物が人間食べちゃうよ系ホラーというか、分母の小さいジャンルですが、その中でも屈指の完成度だと思います。
人体パーツをベースにした気味の悪いバイオクリーチャーが登場する映画は数あれど、SFでもなければ軍隊も研究施設も出てこない。舞台はただの台所。立ち向かうべき敵は――冷蔵庫。
しかし心霊系の話かといえば、そっち方面に極振りしているわけでもない。
それなのに漂う 非日常感の濃度がとにかく凄い 作品です。
そんな意味不明なコンセプトで、なおかつ真面目に一つの作品として成立させてしまったホラー映画は、今のところこの作品くらいです。

