『インフィニティ・プール/Infinity Pool』カナダ2023 ホラー? あらすじ

「広告」

映画

海外版DVDを購入して観た感想+独自解釈レビューです。心理スリラー要素が強く胸糞後味系。苦手な方は注意。クローネンバーグ監督と聞いて身体が反応する方なら鑑賞の価値あり。

『インフィニティ・プール/Infinity Pool』とは?

 2023年1月にカナダで公開され、2024年には日本でも公開された『インフィニティ・プール』( 製作国:カナダ・ハンガリー・フランス)は、心理的スリラーとSFが融合した独特の作品です。
 監督、脚本はブランドン・クローネンバーグで、彼の手掛けるエキセントリックな演出が話題となりました。
(注意:デヴィッド・クローネンバーグではないので間違えないように!)

 知人が自分は見てはいないがこの映画が中々面白そうと教えてくれたので、Amazonで売っていた国内発送の海外版DVDを購入して『インフィニティ・プール』を鑑賞しました。英語字幕なので内容の理解は割と怪しいです。
 因って記事内の、あらすじには、個人的な解釈が多分に含まれております。

 この映画のジャンルですが、ホラーというよりはSF風味のサスペンスに感じました。鑑賞の途中で眠くなって、自分ではそんなに面白いとは思えなかったのですが、世間一般の評判は高いらしいので、確り紹介してみたいと思います。

 物語の流れについては、公式トレーラーや一般的に公表されている範囲を踏まえつつ、自分なりの解釈で紹介します。

あらすじ(ダイジェスト)

 著作権への配慮のため(不特性多数へのネタバレの自粛)、ネタバレありあらすじの詳細はnoteに移します。

前半

 主人公ジェームズは、才能がないのに創作活動を始めた夢追い人。
 当然、創作に行き詰まり、インスピレーションを求めてリゾート地を訪れます。この島は一見平和ですが、実は奇妙なルールや風習がある土地です。
 そこで知り合った観光客と行動をともにするうちに、ジェームズは筆舌に尽くしがたい異常な状況へと巻き込まれていきます。

 この国には独自の極端な司法制度が存在し、彼のアイデンティティ(identity)は徐々に崩壊へと向かいます。
 これが本作の大筋です。そこから先は倫理観の混乱と自己喪失の奇妙な物語へと、少しずつ確実に踏み込んでいきます。


後半

 後半の展開では、ジェームズは周囲の人間関係の中で価値観を激しく揺さぶられ、次第に自己の価値観や倫理観が歪みます。そして、判断基準が曖昧にぼやけるほど精神が追い詰められていきます。
 快楽と暴力が混ざり合う倒錯したコミュニティに巻き込まれ、まるで玩具のように扱われた結果、ジェームズは夢遊病者のように行動するようになり、自分が何を選び、何を失っているのかすら認識できなくなっていきます。

 現実と自己認識の断絶によって、ジェームズは正常に思考することすらままならず、精神錯乱状態で、アイデンティティがボロボロに崩壊していく様子が、強烈に非現実的な展開として描かれます。

 さらに物語は、倫理と自我の問題を極限まで突き詰める方向へ進みます。
 細かい理屈抜きで、監督が突き付けたい“映像だけ”が連打され続けるような構成へと突入します。
 それにより、観客の精神すら混迷の極みに追い込まれ、理不尽の袋小路へ引きずり込まれます。

 ラストシーンの解釈は観客に委ねられており、救いなのか諦めなのか、あるいはまったく別の意味なのか──
 その答えは、受け取る者それぞれの視点に委ねられています。


感想:理解困難な作品

時は何故か淀んだ世紀末♪

 『インフィニティ・プール』の舞台には、どんな犯罪を犯しても、金さえ払えばいくらでも揉み消せる背景が用意されています。
 その結果、倫理観は完全に崩壊し、文明社会の中に『マッドマックス2』のような世紀末的無法地帯が形成されています。
 見ていて本当に胸糞悪くなるタイプの映画です。

SF風だがSFに非ず

 しかし、この世界観の独自性は、他者には決して真似できない領域でもあります。
 だからこそ、嫌悪と同時に“評価せざるを得ない”作品なのかもしれません。

 そして、この映画はSFスリラー風の作品なのですが、この“風”であることが非常に厄介です。“SF”の部分に期待して観ると、「こういうことができます、でも理屈は説明しません」という、SFとしてはあり得ない、最低限必要な説明すらも欠落していて、基本コンセプトが完全に崩壊しています。
 理解不能の技術でありながら、異様なほど高度な科学力だけを突然突き付けられるため、観客は強烈な違和感を覚えます。

 たとえばゾンビ映画やサメ映画のようなB級ジャンルなら、ゾンビ改造の人型兵器が登場しようと、サメが空を飛んで航空戦力になろうと、裏で 「ナチスの科学は世界一チイイイイ!!」 のような設定を匂わせれば、それだけで視聴者はある程度納得します。
 もう下地が完成しているので、無茶な設定でも無理なく押し通しやすいジャンルです。

 しかし『インフィニティ・プール』は、そういう“お約束の土俵”の映画ではありません。
 だからこそ、原理不明・説明一切無しの科学技術が放り込まれることに、どうしても違和感が拭えません。

 おそらく監督は、撮りたい映像と到達点のイメージが最初から強烈にあり、
「導入部分はこのくらいでいいだろう。細かい理屈は重要ではない」
 という、天才ゆえの奇抜な発想エキセントリックな感覚で脚本を組み上げたのだと思います。

 しかし、凡人である視聴者で、その発想についていける人間は少ないと思います。
 結果として、強烈に印象には残るが、意味不明でつまらない映画だった、そんな感想に落ち着いてしまいそうです。
 実際、私自身がその典型でした。

クローネンバーグさん家の息子さんなら仕方ないで許せる不思議

 この映画の監督であるブランドン・クローネンバーグは、あの『シーバース』や『ザ・ブルード/怒りのメタファー』、『スキャナーズ』『ヴィデオドローム』などで知られるデヴィッド・クローネンバーグの息子です。
 その事実を踏まえれば、この作品の作りにもどこかしっくり来る説得力が生まれます。
 流石は親子。映画作りの感性が非常によく似ている。

 この作品にも、クローネンバーグという詳細な説明無しで何をやっても許される土台がありました。

 それを知ると、なぜこんな異様な世界観と作風になったのか──
 ああ、血筋だなと、どこか納得してしまう気がします。

ホラー映画見るならAmazonプライム・ビデオ無料体験登録


まとめ:クローネンバーグの血統が生んだ奇作

 『インフィニティ・プール』は、ホラーというよりスリラーやサスペンスに近い映画でした。
 原理を説明しないSF要素は微妙で、むしろ害悪。謎の科学力をただ突きつけられるだけで、どういう技術なのか説明を求める知的好奇心は無視され、強烈な理不尽さを感じます。
 ちょっと、難解でテンポの悪いク・リトル・リトル神話作品に登場しそうな超科学でもあります。

 正直、私の好きなタイプのホラーではありませんでした。
 上映時間はほぼ2時間と尺が無駄に長く、象徴的な映像描写と少ないセリフのせいもあり、理解が困難で途中でかなりダレてしまいました。観るのが辛くなり、眠気すら感じました。
 しかし私は、一度観始めた映画は最後まで観る主義。まして円盤を買ったとなればなおさらです。
 なんとか最後まで観終わった結果、個人的には「つまらない、低評価寄りの映画」と結論づけました。

 ――しかし、実は視聴前に監督の名前を確認していませんでした。
 鑑賞後に監督・脚本の欄で“クローネンバーグ”の名を目にした瞬間、頭の中でバラバラだったピースが一瞬で組み上がるような感覚があり、現金なものですが当然のごとく手のひらを180°返して、「うん、この映画、アリだな」と思いました。

 結論として、この作品は心理的サスペンスや混沌とした精神世界の描写が好きな方にはおすすめできます。
 そして、何より“クローネンバーグ”と聞いただけで身体が反応する人には、もっと強くおすすめしたい映画です。
 ぜひ一度、鑑賞してみてください。


タイトルとURLをコピーしました