衣類や繊維にUVカット性能を後付したい
日焼けはしたくないので、夏でも基本は長袖・長ズボンです。
しかし、日焼け止めを肌に塗るのはベタつきや匂いが気持ち悪く、しかも毎回塗るのが面倒なので好きではありません。
濃い色の厚手の衣類を着ればある程度は防げますが、真夏にそれでは暑すぎて現実的ではありません。結局、薄手の服にせざるを得ず、肌を露出するよりはマシでも多少は日焼けしてしまいます。
この状況を改善するため、「衣類自体にUVカット性能を後付けできないか」と考えました。
調べてみると、意外にも衣類用に使えそうな紫外線吸収剤がいくつか市販されていました。洗うだけで繊維にUVカット効果を付与できる「UVカット洗剤」や、衣類・繊維に直接吹き付ける「スプレータイプ」の製品がAmazonで販売されています。

ただ、洗剤やスプレーはどの紫外線吸収剤を使っているのかが明記されていないのが気になりました。さらにスプレー製品の口コミでは「強い臭いがする」「室内で使うと危険」と注意書きがあり、正直なところ敬遠したくなります。
そんな中で最も興味をひかれたのが、瓶入りの液状紫外線吸収剤でした。精製水で薄めたり、乳化ワックスと混ぜてクリーム状にして、サンスクリーンを自作するための原料として販売されているものです。
成分の詳細もきちんと記載されており、「コーティング化紫外線吸収剤」という名称で出品されていました。
水で希釈してスプレーボトルに入れれば、衣類に吹き付けて使えるのでは? と思い、試しに購入してみました。
Amazon以外では販売されていない? 紫外線吸収剤内包マイクロカプセル液
配合成分
Amazonの商品ページでは「コーティング化紫外線吸収剤」として販売されていますが、瓶に記載されている正式名称は「紫外線吸収剤内包マイクロカプセル液」でした。
仰々しい名前ですが、これは人体への安全性を考慮して、紫外線吸収剤を直接肌に触れさせず、シリコーンレジン化加水分解シルクのマイクロカプセルに内包しているためです。
このコーティングによって日焼け止め特有のベタつきが軽減され、紫外線吸収剤の皮膚浸透も抑えられるようです。
紫外線吸収剤として配合されている成分は以下の2つです。
- UVB対応(極大吸収波長310 nm)
パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル(Octyl Methoxycinnamate, オクチルメトキシシンナマート) - UVA対応(極大吸収波長357 nm)
4-tert-ブチル-4′-メトキシジベンゾイルメタン(Avobenzone, アボベンゾン)
両者の特性は下の囲みで解説しています。
4-tert-ブチル-4′-メトキシジベンゾイルメタン(一般名: アボベンゾン / Avobenzone)
便宜的な近似吸収スペクトル
波長 (nm) | 相対吸収率(%)* |
---|---|
310 | 20 |
320 | 35 |
330 | 55 |
340 | 75 |
350 | 95 |
357 | 100 |
365 | 95 |
370 | 85 |
380 | 65 |
390 | 40 |
400 | 15 |
*357 nmの吸収強度を100%とした場合の便宜的な目安(実測値ではなく、一般的な文献にあるスペクトル形状を基にした近似)

前提と注意
- λmax=357 nmを100%としてガウス型に近似した「相対吸収率(%)」です。
- 文献や実測データからの厳密値ではありません(便宜的な近似)。
- 320–400 nmのUVA帯で広く吸収する一般的なスペクトル形状を想定しています。
パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル(一般名:オクチルメトキシシンナマート / Octyl Methoxycinnamate, Octinoxate)
便宜的な近似吸収スペクトル
波長 (nm) | 相対吸光率(%) |
---|---|
300 | 60.7 |
305 | 88.2 |
310 | 100.0 |
315 | 88.2 |
320 | 60.7 |
325 | 32.5 |
330 | 13.5 |
335 | 4.4 |
340 | 1.1 |
345 | 0.2 |
350 | 0.0 |
355 | 0.0 |
360 | 0.0 |
*310 nmの吸収強度を100%とした場合の便宜的な目安(実測値ではなく、一般的な文献にあるスペクトル形状を基にした近似)

補足
- 300–325 nm付近が吸収の主帯域で、330 nm以降は急速に低下します(UVB寄りの吸収剤)。
- 「0.0」となっている箇所は、非常に小さい値(ほぼゼロ)を意味します。
使用目的と特徴
この紫外線吸収剤は本来、精製水で希釈して肌に直接塗布するサンスクリーン原液として販売されています。
しかし実際には、口コミを見ると「車のプラスチック製ヘッドライトの黄ばみ防止」に使っている人が多いようです。
私はその口コミからヒントを得て、「水で希釈して衣類にスプレーすれば、UVカット衣料を自作できそう」と考えて購入しました。
なお、説明書によると10倍に希釈した場合でSPF9.3、PA+相当のサンスクリーン効果になるとのこと。
容量は50g入りで、瓶自体は思ったより大きめ。個人使用では消費期限までに使い切れるか少し不安です。

実際のUVカット性能チェック
実験方法
- 厚さ約2 mmのポリプロピレン板の一部に紫外線吸収剤を塗布
- 板の背後にUVチェックカードを設置
- UV-LED光(365 / 385 / 395 nm)を照射し、塗布部と未塗布部の透過を比較

使用したもの
- UV-LED(365 nm, 385 nm, 395 nm ※公称値)
- 受光部3×4 cmのUV(HEV)チェックカード
検証結果
365 nm → ほぼ完全にカット

385 nm → 一部透過(塗布ムラも影響)

395 nm → ほぼ透過

LEDピーク波長 | カット性能 |
---|---|
365 nm | ◯ カットする |
385 nm | △ やや透過する |
395 nm | ✘ 透過する |
結論
このコーティング化紫外線吸収剤に含まれるアボベンゾン(λmax = 357 nm)は、365 nm付近の紫外線をほぼ完全に吸収していました。
一方、385 nmでは吸収しきれず透過が見られ、395 nmになるとほとんどカットされませんでした。
つまり、この薬剤では380〜420 nmのUVA〜HEV光に対するカット性能は期待できないことがわかります。
「紫外線を99%カット」といった万能性はなく、あくまでUVB〜短波長UVA寄りの範囲で効果を発揮する製品と言えます。
なお検証はしていませんが、もう一方のオクチルメトキシシンナマートは、文献的にUVBの280〜300 nm帯での吸収が弱く、実際の防御力は限定的と思われます。
まとめ
今回検証した「コーティング化紫外線吸収剤(紫外線吸収剤内包マイクロカプセル液)」は、確かにUVA短波長域(〜370 nm付近)までの紫外線はしっかり吸収することが確認できました。
一方で、385 nm以上の長波長UVAやHEV光に対してはカット効果が弱いため、近年注目される「ブルーライト領域の光老化対策」としては不十分です。
ただし、この製品は本来「自作サンスクリーンの原料」であり、薄手の衣類や布にUVカット機能を簡単に付与できる点では面白い活用法が期待できます。
特に、夏場の屋外活動で「日焼け止めは苦手だけど、衣類のUVカット性を強化したい」というニーズにはマッチするでしょう。
万能ではありませんが、「UV対策の一つの手段」として知っておくと役立つアイテムだと思います。
衣類や布製品への応用に興味のある方は、一度試してみる価値はありそうです。
使用上の注意点
本記事で紹介した「コーティング化紫外線吸収剤」は、あくまで原料レベルの紫外線吸収剤であり、既製品のように安定性や安全性が保証されたものではありません。実際に利用する際は、以下の点にご注意ください。
- 洗濯耐性について
布や衣類にスプレーした場合、繊維表面に薬剤が付着するだけなので、洗濯で容易に落ちる可能性が高いと考えられます。繰り返し使用するなら、着用ごとに再塗布が必要になるでしょう。 - 皮膚への塗布は自己責任
本来は自作サンスクリーン用の原液ではありますが、濃度調整や乳化処理を誤ると皮膚刺激やかぶれのリスクがあります。直接の皮膚塗布は必ず自己責任で行い、パッチテストなどを推奨します。 - 紫外線吸収剤の持続性について
文献によれば、主要成分の一つであるアボベンゾン(4-tert-ブチル-4′-メトキシジベンゾイルメタン)は光安定性に乏しく、紫外線照射により短時間で分解・失活することが知られています。そのため市販の日焼け止めでは、安定化成分や補助剤と併用されるのが一般的です。
もう一つの成分であるオクチルメトキシシンナマート(Octinoxate)は比較的安定性が高いものの、数時間の紫外線曝露で徐々に分解が進むと報告されています。また、アボベンゾンとの組み合わせにより相互安定化が期待されるものの、十分な持続性が得られるかは使用条件に依存します。
つまり、今回の「コーティング化紫外線吸収剤」も、塗布直後は効果があっても、長時間の屋外使用では効果が減衰する可能性が高いと推測されます。
注意まとめ
項目 | 注意内容 |
---|---|
洗濯耐性 | 繊維表面に付着するだけなので、洗濯で容易に落ちやすく、都度再塗布が必要になる可能性あり。 |
皮膚への使用 | 原液は刺激の可能性あり。自己責任で使用し、パッチテストを推奨。 |
効果の持続性 | アボベンゾン・OMCともに光劣化が起こりやすく、長時間の屋外使用では効果が減少しやすい。 |
他のUV対策との併用 | 万能ではないため、他の対策(日傘やUVカット衣素材など)との組み合わせが望ましい。 |
コーティング化紫外線吸収剤は「UVカットの補助的な手段」にはなるが、過信は禁物です。特に長時間の屋外活動では、日傘や既製のUVカット衣類など、他の紫外線対策と組み合わせて使うのが望ましいでしょう。
参考URL
- アボベンゾン
- t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン
- t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンの基本情報・配合目的・安全性
- メトキシケイヒ酸エチルヘキシルの基本情報・配合目的・安全性
- メトキシケイ皮酸エチルヘキシル