使ってわかるT12シリーズのコテ先の良さ
はんだこてのコテ先「T12シリーズ」は、コテ先内部にヒーターとセンサーが一体化されている構造のため、熱応答性に優れています。温度調整が可能なのはもちろん、加熱スピードも非常に早く、使用中に温度が下がってもすぐに回復してくれるのが特徴です。
このT12シリーズはもともと、白光(HAKKO)の高級ステーション型はんだこて「FX-951」用に作られたコテ先。正直、かなり使いやすくて、私自身、一度使ってからすっかりファンになってしまいました。
ただし、性能が高いぶん、T12シリーズのコテ先自体もそれなりに高価です。加えて、それを使うための専用はんだこて――白光の「FX-951」も、どちらかといえばプロ向けの製品で、お値段もなかなか手が出しづらいレベル。趣味の電子工作レベルで使うには、正直なところオーバースペック&オーバープライスに感じる方も多いかもしれません。
ところが、そこには“よくある抜け道”が存在します。T12シリーズの高性能さに注目した中国メーカーが、T12互換の格安コテ先や、それを使える本体を多数発売しているのです。
互換品でも良ければ、T12シリーズの使い心地を、比較的安価に体験することが可能です。私が現在使用していて、非常に満足している「T12-942」というモデルも、まさにこの互換機にあたります(※この製品については別記事で詳しく紹介しています)。
そして今回、AliExpressをなんとなく眺めていたところ、T12シリーズ対応の激安はんだこてを新たに発見してしまいました。
お値段なんと、送料込みで約1,400円!
このはんだこては、DC12〜24V入力で動作するタイプで、持ち手部分に温度調整用のダイヤルが付いている“いかにも格安品”といった印象。とはいえ、T12シリーズのコテ先がそのまま使えるということで、「サブ機としてもう一本あっても損はないか」と、つい衝動買いしてしまいました。
もちろん、コテ先を交換できるタイプのはんだこてとはいえ、加熱中の交換はできません。ですので、異なる形状のコテ先をセットしたはんだこてを複数用意しておくと、作業の幅が広がって便利です。
T12シリーズの純正コテ先と、このような格安互換はんだこての組み合わせであっても、元祖「FX-951」の快適さには及ばないまでも、価格以上のパフォーマンスを発揮してくれるのは間違いありません。
少なくとも、ホームセンターなどで売っているような初心者向けの安価なはんだこてセットと比べれば、段違いのクオリティと使いやすさが期待できます。
今回は、その激安T12シリーズ対応はんだこてをレビューしていきます。
市販されている非ステーション型でT12シリーズのコテ先が使えるはんだこて
温調機能付きのはんだこてには、大きく分けて2つのタイプがあります。
ひとつは、コテとは別に本体があり、そこに温度調整機能が搭載された“ステーション型”。もうひとつは、コテの柄の部分に温度調整用の基板やダイヤルが内蔵されている“非ステーション型”です。
高価なのは当然ながらステーション型で、柄に温調機能が内蔵されているタイプは、基本的に安価なものが多く、持ち運びやすさや省スペース性に優れる反面、性能や耐久性はやや落ちる傾向にあります。
個人的な感想ですが、長時間連続してはんだ付け作業をする場合は、やはりステーション型の方が安定して使いやすいです。
ただ、ちょっとした修理や趣味の電子工作レベルであれば、非ステーション型でも十分実用的ですし、コスト面を考えると非常に魅力的です。

この手の非ステーション型はんだこても、温度調整がデジタル式かアナログ式か、電源入力がDCジャックのみかUSB Type-Cにも対応しているか、その両方か……といった仕様の違いで価格に大きな幅があります。
特にAmazonで売られているタイプは、パッと見た感じでわかる「ピン(高グレード)」な商品が多く、それなりの価格になります。
一方、今回私が購入したのは、どちらかといえば“キリ”(低グレード)。そのぶん安価ではありますが、電源はDCジャック入力のみ、温度調整はアナログのダイヤル式という、シンプルで割り切った設計です。
とはいえ、このタイプのはんだこての魅力は、モバイルバッテリーなどの携帯電源でも使える手軽さにあります。
もともと12VバッテリーやPD/QC対応のUSB出力電源での使用を想定した設計になっているため、たとえ安物であっても、意外と使い勝手は悪くありません。
たとえば、65W以上の出力に対応したUSB充電器やモバイルバッテリーが1台あれば、それだけで十分に電源として利用可能です。
さらに、Amazonなどで販売されている「USBトリガー」と呼ばれる変換アダプタ(PD/QC対応)を使えば、USB-Cポートしかないバッテリーからでも、12V~20VのDC出力を取り出せるので、DCジャック入力しかない安価なはんだこてもPD電源で使えてしまうというわけです。
なお、このタイプのはんだこては、公称の推奨入力電圧が12〜24Vとなっていますが、実際はもっと低い電圧でも動作は可能です。
ただし当然ながら、電圧が低いと発熱量も少なくなり、コテ先が作業に適した温度まで達するのに非常に時間がかかってしまいます。
実際、5V2Aといった非力なUSB出力でも動作することはします。
しかしこの場合、コテ先が“なかなか温まらない”“温度が安定しない”“ちょっとハンダを当てただけで冷えてしまう”といった状況になりがちで、作業効率はかなり悪くなります。
それでも、使用可能な電圧の幅が広いという仕様は、限られた電源環境でもとりあえず使えるというメリットがあります。
出先や災害時、あるいは仮設的な電源環境でも最低限の作業ができるのは、DIYユーザーにとっては大きな安心材料だと思います。
今回購入したはんだこてのレビュー
最安モデルの本体単体を選択
AliExpressで約1,400円で購入したはんだこては、正式な製品名は不明ですが、本体単体の製品を選びました。通常はコテ先やその他の付属品とセットになっていることが多い中で、本体だけが単体で販売されているのは実にありがたいポイントです。
本体も、デジタルディスプレイが付いていない一番安価なモデルにしました。温度調整はダイヤル式で、大まかに設定するタイプです。この製品は、おそらくT12シリーズのコテ先を既に持っているユーザーが予備として購入することを想定しており、そのニーズに応じて、コテ先すら付属しないシンプルな構成が選べるのでしょう。
もちろん、コテ先や、トリガー内蔵のDCジャックをUSB Type-Cに変換するケーブルがセットになったバージョンも販売されています。しかし私には不要だったため、本体単体のモデルを選びました。
製品は、本体が袋に入れられ、簡素な説明書とともに届くという、非常にシンプルな内容でした。

率直に言って、T12シリーズのコテ先が手元にない場合、このはんだこてを最初の1本として選ぶメリットはほとんどありません。だからこそ、コテ先などの付属品が一切付かない本体単体で販売されているのは、既にT12を使っているユーザーにとって非常にありがたいのです。
なお、USBトリガーを持っていない人であれば、DCジャックからUSB Type-Cへ変換するケーブル付きのセット品を選ぶのも良いでしょう。

USB電源対応はんだこてが人気の理由
最近では、この手のUSB電源対応のはんだこてが、場所を選ばず使えるうえに、温度調整や高速加熱にも対応していることから、密かに人気を集めているようです。
T12と似た構造を持つ「T65」という別規格のコテ先も存在し、やや短めではあるものの、ヒーターとセンサーが内蔵されている点は同様です。T65用のはんだこても専用で販売されており、高速加熱や温度安定性も申し分ありません(このT65対応モデルについては、別記事でレビュー予定です)。
電子工作愛好家にはおなじみの秋月電子通商でも、T65対応のはんだこてがコテ先付きで販売されているため、T12のコテ先を持っていない人が初めて買うなら、T65系のほうが手頃でおすすめです。

加熱性能と電力の目安
私が購入したはんだこても含め、これらの製品は総じて加熱が非常に速いのが特長です。参考までに、6Ωのコテ先を使うT65系のはんだこての一例では、以下のような性能が紹介されています。
- 24V入力:最大4A=96W → 約6秒でハンダが溶ける温度に到達
- 20V 3.25A=65W(約8秒)
- 15V 2.5A=37.5W(約12秒)
- 12V 2A=24W(約17秒)
- 9V 1.5A=13.5W(約30秒)
製品ごとに若干の差はあるものの、6Ωのコテ先を使用するタイプであれば、ほぼ同様の加熱挙動が期待できます。
一方、T12のコテ先は実測で内部抵抗が8Ω強だったため、電力消費がやや少なくなり、そのぶん加熱速度も少し遅くなると考えられます。今回のはんだこても、仕様では消費電力が36〜72Wとされており、最大電圧の24Vを使った場合、
24V ÷ 8Ω ≒ 3A、つまり 24V × 3A = 72W という計算になります。

コテ先の選び方と互換性、はんだこての便利機能
このはんだこては、T12系のコテ先であれば本家・白光の純正品はもちろん、安価な互換品でも使用可能です。互換品は品質にバラツキがあると言われていますが、安価なので試してみる価値はあるでしょう。
たまたま外れを引いていないだけかもしれませんが、私の使った限りでは、互換品でも特に不満なく使用できました(とはいえ、本家が一番という点は変わりません)。
また、加熱中はLEDが点滅し、設定温度に達すると点灯に変わるため、状態の把握がしやすく便利です。さらに、コテ先を上に傾けると自動でスリープモードに入り、温度が270℃程度まで下がります。そして再び下向きにすると、自動で設定温度まで加熱が再開されます。
これにより電力の節約や、コテ先の酸化による劣化の防止にもつながるため、非常に実用的な機能だと感じています。

モバイル電源との組み合わせ運用
電源としては、DC24Vを用意すれば最大パフォーマンスを発揮しますが、リチウムイオン電池(3.7V×4本=14.8V)や、リン酸鉄リチウムイオン電池(3.2V×5本=16V)でも、十分に実用的な性能で使えます。
特にリン酸鉄リチウムイオン電池(LiFePO4)は、満充電で約3.4V、放電停止電圧が約2.6Vと、使用中の電圧変動が少ないため、安定した加熱が可能です(一般的なリチウムイオン電池は4.2V→2.6Vとやや変動が大きい)。
接触抵抗の低い電池ボックスに複数セルを直列接続すれば、コンセント不要で、しかも電池内蔵型製品より高出力・高持続性が見込めるため、屋外や車内での本格的な作業でも大いに活躍してくれそうです。
LiFePO4で運用時の安全対策
以下の写真は、LiFePO4セル(32700規格)を5本直列にして、はんだこてを駆動させている様子です。見た目はやや大げさですが、コンセントのない環境で使用できる利便性は高いです。
ただし、生セルを使う場合、過放電を防ぐための保護回路が付いていないので、注意が必要です。5セルを直列で使うなら、すべてのセルの内部抵抗が揃っていることも重要です。
私は、安全対策として、5セル直列の合計電圧が15Vを下回った時点で自動的に放電を停止する監視回路を自作し、電源とはんだこての間に挟んでいます。これにより、内部抵抗のばらつきがあっても、各セルの電圧が約3Vになったタイミングで安全に停止できる設計にしています(LiFePO4の放電下限は2.6V程度なので、かなり余裕を持たせています)。

モバイルバッテリー使用時の注意点
また、電池ではなくモバイルバッテリーやUSB電源を使う場合は、PD(Power Delivery)65W(20V3A)以上の出力に対応している製品を選ぶのが望ましいです。電圧が高いほど加熱性能が安定するため、なるべく高出力対応の電源を用意すると快適に使用できます。

まとめ:T12コテ先が手元にあるなら、選ぶ価値ありの互換器!
USB電源対応で持ち運びも簡単、加熱性能も十分、さらにT12系のコテ先がそのまま使える──そんな手軽さと実用性を両立した本製品は、「すでにT12コテ先を持っている人」にとっては非常にコスパの良い選択肢です。
温調の正確さや耐久性の面では高級品に劣る部分があるかもしれませんが、予備の1本として、あるいはモバイル用途・野外作業用にはむしろ最適。余分な付属品がないことで価格を抑えられるのも、経験者にとってはありがたいポイントです。
逆に、T12コテ先をまだ持っていない人は、T65系のコテ先とセットになったモデルや、信頼性の高いメーカー品から始めるのが無難かもしれません。
とはいえ、「使いこなせば必要十分」なのがこのジャンルの面白さでもあります。用途と手持ちの環境に合わせて、ぜひ自分に合った一台を選んでみてください。