フィリピンだから作れた有機体系冷蔵庫ホラー映画「Pridyider」
映画「Pridyider」は、2012年に公開されたフィリピンのホラー映画です。監督はリコ・マリア・イラルデ（Rico Maria Ilarde）で、主演はアンディ・アイゲンマン（Andi Eigenmann）です。この映画は、1984年の3 つの短編で構成されたホラー ・アンソロジー映画「Shake, Rattle & Roll.」の中の同名エピソードを基にしており、家にある冷蔵庫が恐怖の源となる物語です。
「Pridyider」の発音はカタカナ表記すると「プリディダー」らしいです。フィリピン語（タガログ語）では、「冷蔵庫」を意味し、英語の”refrigerator（リフレジレイター）”から派生しています。それを踏まえて、「プリディダー」と表記しておけば、日本語話者にとっても発音が判り易いですね。
アメリカ（1992年）産の同じく冷蔵庫を題材にしたホラー「リフレジレイター 人喰い冷蔵庫／The Refrigerator」とは全く別の映画です。何の関連性も無く、当然リメイクとかでもありません。
「Pridyider」を鑑賞したい場合、英語字幕付きのDVDが海外販売されているので、それを購入するのが一番です。
またこの記事は、タガログ語音声、英語字幕のDVDで「Pridyider」を鑑賞した為、内容の把握に関しては、個人的に勝手な解釈をした上で、紹介の記事を書いています。
「Pridyider」のあらすじ
物語は、長年海外で暮らしていたティナ（Andi Eigenmann）が両親の死後、フィリピンの古い家に戻ってくるところから始まります。彼女はこの家で幼少期を過ごしましたが、家族に起きた不幸な出来事が原因で国から離れていました。ティナは家を整理し、新しい生活を始めようとしますが、家の中には不気味な雰囲気が漂っています。
特に、台所にある古びた冷蔵庫が不気味です。この冷蔵庫は彼女の母親が大事にしていたものでしたが、内部から奇妙な音が聞こえてくることに気付きます。ティナは最初、気のせいだと思い無視しますが、やがて冷蔵庫がただの家電ではないことが明らかになります。
冷蔵庫には超自然的な力が宿っており、中には過去の犠牲者の霊が囚われているのです。ティナは次第にこの冷蔵庫が家族の不幸に関係していることに気づき、解明しようとしますが、冷蔵庫の力は強力で、彼女を恐怖に陥れます。ティナは冷蔵庫の秘密を暴き、そこから逃れる方法を見つけなければなりません。
映画のクライマックスでは、ティナが冷蔵庫に封印された悪霊と対峙し、その恐怖と戦うシーンが描かれます。彼女は冷蔵庫の秘密を解き明かし、家族の過去と向き合うことで、最終的には自由を手に入れます。
「Pridyider」は、本来なら無機質な家電製品である冷蔵庫が汁気の多い超常パワーを発揮する設定が割と斬新で、フィリピン特有の文化や伝承を映像を通して垣間見れる、日本人にとっては或る種の環境教材にもなり得るホラー映画であり、独特の味わいを持った土着信仰要素の強いその内容は、観客に恐怖……よりも畏怖とでも呼ぶべきなのか、西洋ホラーとは一味違った強烈で生臭い印象を提供します。
感想込みのネタバレ（未見の人は注意！）
出来れば読む前に、各人で「Pridyider」を先に鑑賞して頂ければと思います。ネタバレには、記事を書いた人間の主観が多く含まれています。
前半
物語の始まりは、長い間海外（アメリカ）で暮らしていたティナが、両親の死をきっかけにフィリピンの古い実家に戻ってくる途中、帰国する飛行機の中で過去の悪夢に魘されて目覚めるところからです。
この家は彼女が幼少期を過ごした場所ですが、家族に不幸が続いたため、長い間放置されていました。
ティナはこの家で独りで暮らそうとします。彼女の叔母は、止めたほうが良いと言いますが、ティナは譲りません。
家の中の掃除を終え、ティナが買い出しに行こうとすると、突然男が家に入ってきて「この家は危険だ。直ぐに出て行け」と忠告します。驚いたティナが護身スプレーを男に向けて噴射すると、男は逃げ出して行きました。
ティナはスーパーに買物に行きました。そこで、小学生の時の時の同級生の男がティナの姿を見付け、声を掛けようとしますが、レジの会計で手間取っている間にティナは帰ってしまいます。
彼は小学生の頃、肥っており虐めに遭った際に、ティナに助けて貰った事があり、それからずっとティナに淡い恋心を抱いていました。
ここで出てくるスーパーが、業務用スーパーなのかディスカウントショップなのか、もしくはフィリピンではこれが普通なのか、倉庫みたいな場所で棚に山積みされた食料品を一般客に販売していて、ビジュアル的になかなか凄いです。
そういえば、日本にもこんな感じのディスカウントストアが、昔はあったなぁ、と懐かしい気分にもなります。
また、ティナが二輪タクシーを利用しているシーンが登場するんですが、ここもフィリピン味が強く出ていて大変興味深いです。こういう映像は、お国柄とその土地の特色が良く表れていて、環境ビデオみたいで大好きです。
ティナが家に帰ってノートに何か書いていると照明が明滅し、気付けば机の上に冷蔵に仕舞った筈のビンが置かれたままでした。
ティナは不審に思うもビンを冷蔵庫に仕舞い直し、再びノートに何か書き始めました。すると、先刻仕舞った筈のビンがまた机の上に戻っていました。
ティナは再度ビンを冷蔵に仕舞いますが、今度は冷蔵から奇妙な音が聞こえてきました。
その奇妙な体験を敢えて考えない様にしたのか、ティナは料理を作り始めます。すると、窓から隣の家に住んでいる女性が覗いています。
ティナは怒ってナイフ片手に追いかけ、追い詰めると、「なんで私を監視する？」と隣家の女性を問い詰めます。その女性は「飼い猫がいなくなったので、この家に来てないか、探しに来た」と答えます。
隣家の女性──セリーヌは謝罪し、誤解が解け、2人は仲良くなります。ティナはその女性から、家で過去に起こった事件や、死んだ両親に関しての話を教えて貰います。
ティナはこの後にも、何か事ある度に包丁片手に握りしめて外に飛び出すシーンが出てきます。割と物騒な女性です。日本なら即、警察に通報されそうですが、フィリピンはおおらかなのか、特に問題は起きません。
この家──ベニテス家には昔、ティナの父親と母親、家政婦が住んでいました。パラノイア気質のある母親は、父親が家政婦と親し気に話すのを見て、嫉妬に駆られてあの2人は浮気しているのではと妄想を膨らせました。
やがて、心を病み始めた母親は、包丁片手に家政婦を追い掛け回して殺そうとしたり、常軌を逸した行動を取るようになり始めます。
母親は次第に壊れていき、愛情や嫉妬が混じり合って生まれた憎しみを父親に向けて、父親を口汚く罵倒する様になりました。
そんな母親の行動に耐えられなくなった父親は、癒やしを求めて他所の女性とデートする様になりました。しかし、母親はその後を付けて行って、現場の一部始終を監視していました。
正気を失った母親が何かしたのか、父親のデート相手の女性が行方不明になってしまいました。父親は母親を問い詰めますが、母親は無視します。
時間の経過と共に、父親は母親ともう一緒に暮らすのは無理だと、母親を家に残して失踪してしまいます。その後の母親は、家に引き籠もる様になりました。
或る日、ベニテス家に電気系統のトラブルが生じ、修理業者が呼ばれました。修理業者は冷蔵庫の扉の隙間から大量の鮮血が流れ出すのを目撃しました。修理業者が恐る恐る冷蔵庫を開けると、中には解体された人間の死体が詰まっていた。
修理業者の通報で、翌日警察がベニテス家を訪れた。母親を殺人と死体遺棄の重要参考人として連行する予定だったのだが、警察が家に到着した時には、母親は何故か既に死んでいた。
警察は、行方不明の父親は、母親が殺したのだろうと推測した。しかし父親の死体は見付からなかった。
噂話としてご近所に流布していたそんな情報を、ティナはセリーヌから仕入れた。
ティナやその母親が、何かあれば直ぐに片手に包丁を握るのは、もしかしたら、ベニテス家の女系血統に代々受け継がれている、伝統的な戦いの発想法なのかも知れません。
シーンは変わり、ティナが寝ていると電話が掛かって来て起こされる。相手はティナに執着している男ディックでした、ディックはティナにロサンゼルスに帰って来いと言います。ティナはディックに「私はあなたと付き合っていない。放っておいてくれ」と電話を切ります。
その後にティナが家の掃除をしていると、突然照明が明滅を始めます。
シーンは変わり、隣家の猫がベニテス家の台所に忍び込み、まな板の上にあった肉を勝手に食い漁り始めました。悪い猫です。すると天罰覿面ではないですが、冷蔵庫の扉が独りでに開き、中から有機体めいた触腕が伸びて来て、猫を捕獲して内部に引き摺り込んでしまいます。
有機体なのか無機体なのか判らない、フィリピン映画が生んだ凄い化物冷蔵庫です。
ティナがキッチンにやってくると床に猫の首輪が落ちており、ティナはそれを拾って首を傾げる。
机の上を見ると、冷蔵庫の中に入れて置いた筈のビンがまた勝手に机の上に並んでいた。ティナは訝しがりながらも、それを冷蔵庫に戻す。
ティナはふと、冷蔵庫の中に戻したビンの一つに、何か妙なものが入っているのに気付いた。ビンを持ち上げて中身を確かめるティナ。ビンの中には猫の生首が詰まっていた。
悲鳴を上げてティナはビンを手放した。床に落ちたビンが割れると、先刻入っていた猫の生首は消えていた。
ティナはしょっちゅう家の照明が明滅を始めるので、電気系統を一度点検して貰おうと修理業者を訪れます。するとそこの業者のボスは、小学校の時の同級生、ジェームズ（ティナは気付かなかったが、スーパーで出会っていた男）でした。2人は旧知との再開を喜びます。
帰宅したティナ。食材を冷蔵庫に入れようと扉を開けると、中に血塗れの人間の生首が入っていました。驚いて一旦戸を閉めて、再び再確認するティナ。すると、冷蔵庫の中の生首は消えていました。
この周辺の土地を地上げしているタバリオ弁護士が訪ねてきます。タバリオ弁護士はティナに土地を売れと要求します。ティナは「両親が残した家だから無理」と断ります。
タバリオ弁護士を穏便に追い返す為に、ティナは彼にパスタ（？）料理を振る舞います。タバリオ弁護士は美味そうに料理を味わいますが、何故か、その料理の中身がワーム状の生物（死骸？）に変化していました。
それを目撃したティナは驚きますが、タバリオ弁護士はその変化に気付いていないのか、何の躊躇もなく全て食べ切ってしまいます。
もしかしたら、これはティナにしか気付けない怪奇現象等ではなく、フィリピンには存外に虫食文化が根付いており、ネイティブなフィリピン人であるタバリオ弁護士が、虫は食い物的な考えを持っていただけなのかも知れません。多分、違うと思いますが。
タバリオ弁護士が帰った後、ティナは冷蔵庫に仕舞ってあったパスタの作り置きをチェックします。すると、冷蔵庫の超自然的パワーが発揮されたのか、パスタの一部がワームに変化していました。ティナが悲鳴を上げます。
その時、絶妙なタイミングでセリーヌが訪ねてきました。セリーヌと一緒にパスタを再確認すると、ワームは消えていました。
冷蔵庫、この時点では未だ、自分の秘めたる力を大っぴらに見せびらかさず、一応は取り取り繕って隠蔽に走ります。
流石に冷蔵庫を不気味に感じたティナは、新しい冷蔵庫を買いに家電ショップへ出かけ、冷蔵庫を買います。新しい冷蔵庫が家に届き、古いのを処分して貰おうと思いましたが、冷蔵庫が重くて動かせず断念します。
古い冷蔵庫の中の食品を新しい冷蔵庫に移したのですが、新しい冷蔵庫は何故か直ぐに壊れ、結局旧式を再び使う事になりました。
その夜、ティナの家の権利書を盗もうと、タバリオ弁護士が家の中に忍び込みました。タバリオ弁護士は権利書を探している途中で、冷蔵庫の扉が開いており中に美味そうな食物が入っているのを見て、摘み食いしようと冷蔵庫に近付きました。
すると、冷蔵庫の扉がタバリオ弁護士を挟みました。ダメージで動きの止まったタバリオ弁護士へ、冷蔵庫は連続で攻撃を入れます。ラストの一撃で吹き飛ばされて、タバリオ弁護士は床に転がります。
冷蔵庫の中から、節足動物めいた足が生えた人間の右手が這いずり出てきました。掌には口がついています。
憶測ですが、冷蔵庫の超常的パワーが、一度取り込んだ人間の死体を進化させて奇妙なクリーチャーを創造し、手足として使役しているみたいです。実に芸達者な冷蔵庫です。
何と言うか、出て来たのは、物体X（The Thing）に寄生された人間の腕みたいです。その造形はかなり素敵です。
右手クリーチャーは、タバリオ弁護士の脚を咥え、冷蔵庫の中へと引き摺って行きました。その途中で、タバリオ弁護士は地獄めいた光景、冷蔵庫の中に詰まった人間の生首2つと、血の滴る臓物や手足等の人体パーツの数々を目撃します。タバリオ弁護士が冷蔵庫の中に完全に飲み込まれると、冷蔵庫の扉がバタンと締まりました。
翌日ティナは、家の古い配電盤をジェームズに交換して貰います。その時に、ティナとジェームズは、そのうちに何処かに遊びに行こうと約束を交わします。
その後、家で料理を作っていたティナは、冷蔵庫の中の製氷室にタバリオ弁護士の生首が入っているのを見付けてしまいます。しかし、どうもティナは疲れているから幻覚を見たのだと自分を納得させて、それを見なかった事にしました。
気分を変える為に、ティナはジェームズに電話してドライブに連れて行って貰います。
夜、ティナが家に帰ってくると、謎の男が家を覗いているのを見掛け、ティナは包丁を忘れずに片手に握って男を追いかけますが、外に出た時には見失ってしまいました。
そこで、ティナの家を訪れようとしていたセリーヌと遭遇します。セリーヌはティナの持った包丁はスルーです。友達の特性を良く理解しています。
セリーヌはティナを家に招き、「あなたの母親を調べる手掛かりになるかも」と地下の物置に保管されていた、ティナの母親の事件の記事が掲載されている昔の新聞を、ティナに渡しました。新聞には、当時に事件を担当したアルバイ刑事の名前がありました。
そして、セリーヌとアガサ（セリーヌの同居人）から、ティナの家の台所辺りから夜に奇妙な音がする、家に霊が取り憑いているのではないか、という話を聞かされます。
ティナの家に誰かが訪ねてきます。セリーヌが来たのだと思って出ると、アメリカから態々ティナに会いにやって来たディックでした。ティナは呆れるも、ディックをその夜、家に泊めます。
夜、ディックは居間のソファに寝転がっていました。すると台所で何かが燃える臭いがします。行ってみると、ティナが母親を調べる手掛かりに、と貰った新聞が燃えています。ディックは慌てて火を消します。
すると、冷蔵庫の扉が勝手に開き、中から触腕が伸びてきます。触腕はディックに絡み付き、ディックを中に引き込もうとします。必死に助けを求めるディック。
その声に気付いたティナが台所に行ってみると、今正にディックが冷蔵庫に飲み込まれようとしています。ティナは助け様としますが、その甲斐虚しくディックは冷蔵庫に飲まれてしまいました。
段々と冷蔵庫が本性を隠さず、好き勝手に振る舞う様になってきました。
後半（激闘編）
ティナはジェームズに冷蔵庫の件で助けを求めます。そして、ジェームズ、セリーヌ、アガサが立ち会う下で呪術師を呼んで、冷蔵庫に対して悪魔調伏の儀式を行ってもらいます。
呪術師が調伏を行うと、冷蔵庫は血を臓物の破片を吹き出してそれに抵抗を見せました。冷蔵庫はもう、人目を気にせず全力を振るう様になってきました。その場に居た者全員が血と臓物の破片塗れになり、調伏は失敗に終わりました。
このシーン、有機体系の化物冷蔵庫を相手に東洋系の土着呪術で対決するという阿呆みたいな図式が、昔の香港のホラー映画にも通じる痛快なノリがあって、非常に素晴らしい脚本と言わざるを得ないです。
CGではなく、物理的に役者にぶっ掛けられる血糊の量も申し分なく、B級ホラーはこうでなきゃという部分が確りと作り込まれています。
こんな素敵な作品が、日本未公開だというのが実に惜しいです。時代が時代、レンタルビデオ全盛期であれば、きっと日本語字幕版がリリースされていた事でしょう。
冷蔵庫との戦いで呪術師は再起不能。ジェームズとティナは教会に助けを求めますが、神父は協力を拒みます。冷蔵庫に悪霊が憑いている、神父はそれ自体を信じていない訳ではないのですが、何かを恐れている様な雰囲気です。
神父は、実はその件で助けを求められたのは2回目だと語ります。そこで、ティナの母親、ベニテス家事件を担当したアルバイ刑事の名前が出ます。そう、教会に協力を最初に頼みに来たのは、アルバイ刑事だったのです。
因縁深気な過去話も具体的になってきて、冷蔵庫vs人間の戦いの行方が、いよいよここで一気に白熱してきました。
ふと考えてみたら、後の作品、デストイレ（2018年）も、敵が冷蔵庫か便器かの違いだけで、大筋の部分ではPridyiderと似ている作品なんじゃないかと、ここで気付いてしまいました。尤も、映画の出来としてはPridyiderの方が何十倍も面白いのですが。
ジェームズとティナは、母の事件と冷蔵庫との対決のヒントを得る為、アルバイ刑事の下を訪ねます。
アルバイ刑事は、母親の事件で警察を辞めることになり、冷蔵庫に左目を奪われ、辺境の地で世捨て人の如くの生活をしていました。
ジェームズとティナはアルバイ刑事から事件の真相を教えられます。ティナの母は、父親の愛を永遠に自分だけのものとする為に、悪魔と取引をしたのだというのです。
父親の愛人を殺し、その人体パーツを使用した儀式を執り行う事で、自分が完璧な存在になるつもりだったというのです。
しかし、その儀式が完成する一歩手前で、家に来た修理工に冷蔵庫の中身を見られ、警察に介入される事になり、母親は何故か、やはり包丁を片手に持ち冷蔵庫の中に隠れ、そのまま凍死し、儀式は中断されたというのです。
何と言いますか、話が凄い方向に一気に進展を見せました。話のスケールが大きいのか小さいのか、何処にどう突っ込めば良いのか、筆舌に尽くし難い珍妙怪奇な過去が詳らかになりました。
いやあ、この脚本を考えたリコ・マリア・イラルデ監督の奇才っぷりに頭が下がります。
母親が悪魔との取引をするのに参考にした本が、図書館に隠されているとアルバイ刑事に教えられて、ティナは図書館で件の本を発見します。するとそこに、行方を眩ませていた父親が姿を現しました。
ティナにこの家を出て行けと忠告し、家の周囲を彷徨いていた男、それが父親でした。姿を見せた父親の顔の左側は焼け爛れていました。過去に、母親の魂が取り憑いた家の冷蔵庫にやられてそうなったのだというのです。
父親は、当時の事情をティナに語ります。母親の魂が取り憑いた冷蔵庫がある家に住んでいては、ティナも何れ危険な目に遭うかも知れないと危惧して、子供の頃のティナをアメリカに移住させたというのが真相だったのです。
事情が判る様でいて意味不明な過去話です。まあ、我が子を護りたいという父親の親子心が、そこにあったと考えておけば、そうそう間違ってはいなさそうです。
ティナは魔術書から、今現在は中断状態になっている、母親が行った儀式を完全に破壊する方法を知ります。それは、儀式で開かれそうになっている門を爆発で吹き飛ばす「聖なる爆弾」の制作方法でした。
ヤバいです。話がドンドン予想外の斜め方向へと進んでいきます。真逆、ここで爆弾作りイベントが唐突に発生するとは、誰が予想し得たでしょうか？
ティナはジェームズと教会に赴き、爆弾作りに入ります。神父さんも爆弾作りには何故か普通に協力してくれました。
聖人の花や祝福された油、イエス・キリストの祝福された毛、英語字幕なのでよく判らない部分が多いですが、教会で手に入る色々な物を混ぜ合わせ、爆弾が完成します。
しかし、この爆弾がデカい。両手で何とか抱えられるサイズです。
爆弾の完成後、冷蔵庫との最終対決の時がやってきます。
母親の魂を冷蔵庫から誘き出す為の囮として、台所の床にネジ止めした椅子に父親が座り、その体を椅子にベルトで固定して、冷蔵に引きずり込まれない用心をして、準備は万端です。
ティナが父親に聖水入りの容器を渡します。なんかブラの容器にマジックペンで十字架・聖水・十字架と書いてあります。手作り感が凄まじいですが、聖別さえ施してあれば効果の程は問題無いのでしょう。
冷蔵庫と向かい合う形で、父親は聖水を持って椅子に座り、じっとその時が来るのを待ちます。ティナとジェームズも台所で待機しています。
やがて、冷蔵庫の扉が開くと、中からこれまでよりも遥かに大量の触腕が一斉に出現します。触腕は父親の身体に巻き付きます。
ここのシーンで、どの系統のファンに需要があるのか知りませんが、触腕×中年男性のコアな画が見られます。
過去とは比較にならない程、大量に出現した触腕に対し、ティナは片手の包丁で、ジェームズは片手斧で、それぞれ切り付けますが、触腕はそう簡単に切断出来ません。
触腕は父親の身体を引き寄せます。床に固定された椅子が引き剥がされ、父親は到頭、冷蔵庫の中に引き込まれてしまいました。
扉の閉じた冷蔵庫に向かって、ジェームズが片手斧を投げ付けますが、弾き返されてしまいます。
一瞬でしたが、凄まじい攻防戦でした。舞台が台所、敵が冷蔵庫ではありますが。
そして、父親が飲み込まれてから暫くすると、冷蔵庫から白い何かが吹き上がります。
どうやら、父親が持っていた聖水が冷蔵庫の内部でぶち撒けられ、冷蔵庫に大ダメージが入ったみたいです。
父親の捨て身アタックは見事に一矢報い、決して無駄では無かったのです。
以前は、大地に根を張る大木の如く押しても引いてもびくともしなかった冷蔵庫ですが、かなり弱った状態になったのか、ティナとジェームズが押すと簡単に倒れてしまいました。
冷蔵庫の下から、謎の縦穴が出現します。地下には水が溜まり、千切れた腸の一部が浮いています。
覚悟を決めたティナは爆弾を抱え、全てを終わらせる為に地下に降りて行きます。熱い最終決戦のシーンですが、舞台は一般家庭の台所です。
地下空洞には、生きたまま壁に取り込まれた人間が苦鳴を上げ、骸骨が転がっています。その様はまるで胎内堂です。エイリアン2のラストシーンを想起させる緊迫感が漂います。
ティナは聖なる爆弾に点火し、地上に戻ろうとします。しかしその時、水中から包丁を片手に持った母親が出現し、「このまま簡単に帰すと思うか」とティナの前に立ち塞がります。
最恐にして最大の敵が、ここで姿を見せました。ティナも片手に包丁を構え、応戦の覚悟を決めます。
女系血統に刻まれた因縁なのでしょうか、ベニテス家の女性は本当に武器としての包丁が大好きです。
ティナと母親が包丁を振るい、刃物と刃物が打つかる硬質な音が胎内堂に響きます。ここに来て真逆の、白熱したアクションシーンが用意されていました。
最初は母親と互角に渡り合っていたティナですが、段々と戦いの年季の違いが顕著になり、スピードもあるのにパワータイプの母親の攻撃に、ティナは徐々に押され始めます。
そこで、思わぬ援護が入ります。壁に取り込まれながらも、何とか意識を保っていた父親が、母親を後ろから羽交い締めにしました。
父親は「逃げろ」とティナに叫びます。ティナは後ろ髪を引かれながらも、穴から地上に戻ります。
父親が母親に向けて「私達がやっと一緒に暮らす時が来ましたよ」と言います。
次の瞬間、大爆発が起こります。「聖なる爆弾」の製造には火薬も使っていたのでしょうか？ 兎にも角にも、王道のB級ホラーには付き物の爆発エンドです。
この演出、流石、リコ・マリア・イラルデ監督は出来ておる喃。
爆発後、ベニテス家の台所は滅茶苦茶な状態です。しかしキャビネット内部に避難して、ジェームズとティナは無事でした。
冷蔵庫は大破しています。冷蔵庫は、「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」の冒頭でも脅威の爆発耐久を見せていましたが、流石に内部から爆破されると壊れる様です。
こうして物語は、何を見せられていたのだろうかと思ってしまう激戦の末に、ハッピーエンドを迎えます。
内容を把握する為にwikipediaのプロットを参考にさせて貰っています。
https://en.wikipedia.org/wiki/Pridyider
最後に
「Pridyider」とても面白かったです。家電製品系ホラーというか、無機物が人間食べちゃうよ系のホラーというか、そういう系統の中でも屈指の完成度でした。まあ余り分母が大きくないジャンルですが。
