最近見る32700規格LiFePO₄電池セル 大容量12800mAhは真実か?

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通販サイトの商品ページの公称容量は、半分以上が嘘?

 32700セルというのは、直径が32mm、長さが70mmの比較的大きな円筒型リチウム電池です。太さとしては単一電池に近いですが、長さはそれよりも長く、やや存在感のあるサイズ感です。

 最近、3.2Vのリン酸鉄リチウムイオン(LiFePO₄)電池として、この32700セルタイプで「12800mAh」と記載された製品を頻繁に見かけるようになりました。商品説明ページには12800mAhと堂々と書かれており、シュリンク(外装フィルム)にも同じ容量が印字されています。

 確かに、32700セルはそのサイズに見合った大容量の製品が多いですが、それでも一般的なLiFePO₄電池では容量6000mAh前後が標準的です。果たして本当に、12800mAhもの大容量を実現した革新的なセルが登場したのか? それとも、単に見かけのスペックを盛っているだけなのか……非常に気になるところです。

 そんな疑問が湧いたこともあり、価格を見てみると10本で約2700円(1本あたり270円)と、もし実容量が6000mAh程度だとしても、まあ損はしないかなという値段でした。今後主流になっていく可能性もあるLiFePO₄電池ですし、試しに購入してみることにしました。

 というわけで、この記事では実際に容量を測定した結果をご紹介していきます。

32700規格で公称容量12800mAhのLiFePO₄電池を測定する

疑わしい公称容量

 私が購入したのは、水色のシュリンクに「lerp」と書かれた32700規格のLiFePO₄電池です。これがメーカー名なのか、製品名なのかは不明です。

 同じような価格帯で販売されている32700電池には、シュリンクこそ異なるものの、中身は同じセルでは? と思われる公称12800mAhの製品がいくつか存在します。

 私が購入した当時、「lerp」の電池には容量詐称を指摘するようなレビューは見当たりませんでした。しかし、オレンジ色のシュリンクに「jungia」と書かれた類似品(これも公称12800mAh)には、実測で5000mAhしかなかったという検証動画がすでに存在しており、公称容量が偽装されていることが判明しています。

 さらに上の商品画像を見ていただければ分かるように、私が購入した電池や「jungia」版など、見た目だけを変えたような類似品が多数存在します。
 この状況から推察すると、「lerp」の実容量も「jungia」と同じく、5000mAh程度なのでは……という嫌な予感がしてきます。


LiFePO₄電池はリチウムイオン電池の充電器では充電不可

 届いた電池セルの電圧を測ってみると約3.2V。LiFePO₄電池の公称電圧は3.2Vですが、満充電時は約3.6V、充電終了後しばらくすると3.4〜3.5Vあたりで安定します。つまり、届いた状態では満充電には至っていないと考えられます。

 電池容量を測定するには、まず満充電が必要です。ところが、3.7Vのリチウムイオン電池用充電器は家にあるのですが、3.2VのLiFePO₄電池に対応した充電器は持っていません。

 そのため、今回は1セルずつ安定化電源を使って充電することにしました。

 LiFePO₄電池の充電は、3.6〜3.65Vの電圧で、0.5Cの定電流で行うのが基本です。仮に12800mAhが本当なら、0.5Cは6.4A。しかし、実容量が5000mAh程度なら、この電流値は危険なので、今回は2Aで充電を行いました。

 早めにLiFePO₄対応の専用充電器を購入するか、4セル程度をまとめて充電できるMBS(バランス充電機能付きボード)などを導入した方が楽になると感じました。

 参考までに、満充電後にテスターで内部抵抗を測定してみたところ、約10mΩという結果でした。使ったテスターは安価なモデルなので絶対値の精度には疑問がありますが、過去の測定との比較には十分使える信頼性はあります。

 ちなみに、このテスターで新品のSamsung INR18650-26Eを測ると、内部抵抗は約18mΩでした。そう考えると、今回のLiFePO₄電池の内部抵抗はかなり低く、優秀な値と言えます。


放電させてみた結果

 電池容量テスター内蔵型の電子負荷装置を使い、「lerp」の電池を2Aで放電してみました。放電停止電圧は余裕を見て2.6Vに設定(このLiFePO₄電池の最低電圧は2.5Vとされている)。

 なお、LiFePO₄電池は3Vを下回った時点で残容量が10%を切るので、手早く実容量を把握したい場合は3Vまでの放電でも大まかな把握は可能です。

 さて結果ですが、やはりというべきか、容量は約5500mAhでした。これはつまり、元々5000mAh程度のセルに「12800mAh」と印字されたシュリンクを被せて高容量を偽装し、販売しているということが確定しました。

 まったく、通販サイトの出品者の中には、呼吸をするかのように当たり前に容量詐称を行っている業者が存在しています。モラルのかけらもありません。

 そして、そうした出品者を放置している通販サイトの運営体制にも問題があるように思います。


偽装容量表示の問題点

 LiFePO₄電池を専用の充電器で充電するなら問題は起きにくいのですが、安定化電源を使う場合は注意が必要です。通常は、公称容量をもとに0.5Cで充電電流を設定します。

 つまり、表記が12800mAhであれば、0.5Cの6400mAで充電することになります。ところが、実際の容量が5000mAh程度であれば、それは過剰電流での充電になり、非常に危険です。

 発火や爆発まではいかなくても、電池の寿命が著しく短くなったり、性能劣化を引き起こすリスクが高まります。

 公称容量を鵜呑みにして購入してしまったユーザーにとっては、重大な不利益となるでしょう。最初から「容量盛ってるでしょ」と疑って購入するような人ならまだしも……。

 本当に、こういった公証容量を水増しする電池販売者は絶滅してほしいです。


製品として粗悪と断言できないのが悩ましい部分

 とはいえ、公称容量を詐称しているとはいえ、電池自体が完全に粗悪かと言うと、それも違います。

 確かに、容量が公称の半分にも満たない点はひどいですが、それ以外の性能はそこそこ良く、価格も安め。高出力に対応できるセルであることは確かです。

 32700規格で実容量5000mAhというのは、ごく普通のスペックです。つまり、最初から正直に5000mAhと表示していれば、ちゃんと評価される製品なのです。残念なのは、販売者のモラルのなさです。

 「わかってて買う」タイプのユーザー、いわば“地雷を踏みに行く覚悟のある人”であれば、この電池はコストパフォーマンスの面でそこそこおすすめできます。

 しかし、そうした背景を知らない人が誇大表示を信じて購入してしまえば、騙されたも同然。これが大きな問題なのです。


容量水増しLiFePO₄電池のレビューの最後に

 今回紹介した「lerp」のLiFePO₄電池、そして実測動画で容量詐称が判明している「jungia」ブランドの32700電池。いずれも格安で出回っている商品ですが、公称スペックを信じて購入してしまうと、実際の性能とのギャップにがっかりすることになります。

 特に「jungia」の電池はAmazonでも普通に販売されていますので、価格やスペックだけを見てポチってしまうと、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。購入する際は、レビューや検証情報をしっかり確認することを強くおすすめします。

 ただし、今回のように「実容量を理解した上で」あえて安価なセルを選ぶという選択肢も、使い方次第では“アリ”です。用途が限定されていて、価格重視で割り切って使うなら、コストパフォーマンスはそれなりに良好です。

 とはいえ、やはり正直なスペック表示がされていてこそ、安心して購入できるというもの。モラルなき販売者による“盛りすぎ電池”がこれ以上増えないよう、購入者側も騙されない目を持って選んでいきたいところです。


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